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菅平高原実験センター赴任にあたっての抱負

出川 洋介 2009年4月

 4月1日より菅平高原実験センターに着任しました出川洋介と申します。私は菌類の自然史の研究をしています。自然史「Natural History」とは、実際に自然界で生きている生物そのものに即し、その分類、系統、生態、生理や遺伝など、その生物に関わるあらゆる属性を総合し、多様性を理解していく学問だと考えています。菌類は、動物と姉妹群をなすことが今や定説となっています。様々な材料、技術を駆使して、菌類が、動物と分かれて後、いかに多様化し、繁栄してきたのかを探っていきたいと思います。

 菌類の分類学は大変に遅れています。キノコからカビにいたるまで、現在、世界から約10万種の菌類が知られ、総種数は150万種と推定されていますが、日本からはその1%、1万5千種しか知られていません。3月までセンターに居られた徳増征二先生の指揮で、昨年まで、菅平菌類インベントリー調査というプロジェクトが実施されました。特に微生物である菌類の場合、菌類相を明らかにするには、特定のスポットで集中的に調査を進めるのが効率的です。また、菌類は他生物と密接に関わりながら多様化した生物ですので、動植物を研究するスタッフや、フィールド、設備が整うセンターは理想的な菌類研究拠点です。

 私がセンターの院生だった頃、昆虫発生学研究室の池田八果穂博士が、材料のコムシに生えたカビを持ってきてくれました。検討の結果、このカビは接合菌綱の新分類群であることがわかり、やはりセンターの院生だった栗原祐子博士が学位論文中で新属を提唱し、その胞子形成構造を発見者の名前(豊かに実る稲穂という意)に見立て、Myconymphaea yatsukahoiと命名しました(Kurihara et al. 2001)。このカビはセンター内では生息が続いていますが、未だ他所から見つかっていません。センター界隈に限っても、未だ更に菌類インベントリー調査を積極的に進めていく必要があります。

 来訪者の皆さんにも、フィールドと実験室が直結した菅平高原実験センターの利点を多いに活用して頂き、センターの研究教育活動が更に活性化されることを切に願います。

Kurihara,Y., Degawa, Y. & Tokumasu, S. (2001) A new genus Myconymphaea (Kickxellales) with peculiar septal plugs. Mycol. Res. 105 :1397-1402.

図:菅平高原実験センター内をタイプロカリティとする、コムシの死骸から発見された接合菌類のカビMyconymphaea yatsukahoi (接合菌綱キクセラ目(現キクセラ亜門)、キクセラ科)

全景
胞子形成構造の全景

菌糸
隔壁孔を持つ菌糸

胞子
胞子(小胞子嚢胞子)

拡大
胞子形成構造の拡大


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