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 研究活動紹介 


<2019年>
ゴキブリの起源は意外と新しかった!〜ゴキブリ類の系統進化の再構築〜
1KITEコンソーシアム網翅類サブプロジェクトグループ、菅平高原実験所昆虫比較発生学研究グループ町田龍一郎(教授)、藤田麻里; Proceedings of the Royal Society B (2019) doi.org/10.1098/rspb.2018.2076.
  筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の町田龍一郎教授と藤田麻里(現 筑波大学社会連携課SKIP事務局)を含む、世界7カ国、17研究機関の研究者20名からなる 研究グループは、現生の66種の昆虫の約2,400の遺伝子を解析し、信頼度の高い系統関係を提出し、進化変遷を推論しました。
●網翅類(ゴキブリ目、シロアリ目、カマキリ目)の単系統性と、シロアリ類を内群とした広義のゴキブリ目の単系統性が強く支持されました。
●@ゴキブリ目とカマキリ目の分岐はおよそ2億6000万年前の中生代ペルム紀、A現生のゴキブリ目の起源はおよそ2億年前の中生代三畳紀、B目内の各グループの分岐は、 ほとんどの主要グループで中生代白亜紀(1億5千万〜6千6百万年前)に起こったことが分かりました。ゴキブリ類は石炭紀(3億〜3億6000万年前)から存在する 太古の昆虫という定説を覆す結果です。
●現生のゴキブリ類の大部分が脂肪体細胞内に取り込んでいる共生細菌ブラッタバクテリウムは、窒素老廃物を利用可能な窒素へと変え、アミノ酸に変換して宿主であるゴキブリに 供給します。この共生関係は、ゴキブリ目の共通祖先で一度だけ生じ、ホラアナゴキブリ科とシロアリ類への進化の過程で、それぞれに共生関係を失ったことが確かめられました。
●卵や仔の保護行動という観点から、ゴキブリ目内での社会性進化の三段階のシナリオが描かれました。@卵鞘による卵の保護、A卵鞘の保護(安全な産卵場所の確保、 卵鞘の体内への引き込みと哺育)、B亜社会性のグループで見られる仔の保護の三段階です。キゴキブリとシロアリでは仔の保護に加えて「肛門食」による親から仔への セルロース分解性微生物の受け渡しが見られることから、キゴキブリの亜社会性(一夫一妻と仔からなる家族構造)はシロアリの真社会性への前段階と考えられます。


研究成果のポイント
1. 信頼度の極めて高いゴキブリ目の系統樹を構築しました。
2. ゴキブリ目各グループの分岐年代や目内の固有の特徴(共生細菌や社会性等)の進化変遷を解明しました。
3. ゴキブリ目は3億年ほど前の石炭紀に出現した古いグループではなく、およそ2億年前のペルム紀に出現し0 て中生代に多様化し、現在の科が出そろったのは白亜紀(6600万〜1億5000万年前)になってからだったことが分かりました。

  *本研究は、昆虫類全体の系統進化を明らかにしようとする「1000種昆虫トランスクリプトーム進化プロジェクト」(1KITE)のサブプロジェクトの一つ、 「網翅類サブプロジェクト」からの成果です。

多様なゴキブリ類
Dominic A. Evangelista, Benjamin Wipfler, Olivier Bethoux, Alexander Donath, Mari Fujita, Manpreet K. Kohli, Frederic Legendre, Shanlin Liu, Ryuichiro Machida, Bernhard Misof, Ralph S. Peters, Lars Podsiadlowski, Jes Rust, Kai Schuette, Ward Tollenaa, Jessica L. Ware, Torsten Wappler, Xin Zhou, Karen Meusemann and Sabrina Simon (2019)
An Integrative Phylogenomic Approach Illuminates the Evolutionary History of Cockroaches and Termites (Blattodea).
Proceedings of the Royal Society B (2019)doi.org/10.1098/rspb.2018.2076.

身近なバッタ、カマキリなどからなる多新翅類内の系統関係を再構築〜多新翅類の祖先型も復元〜
1KITEコンソーシアム多新翅類サブプロジェクトグループ、菅平高原実験所昆虫比較発生学研究グループ町田龍一郎(教授)、内舩俊樹(現 他、横須賀市自然・人文博物館)、清水将太(現 松本秀峰中等教育学校)、真下雄太(現 北里大学)、藤田麻里; Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS); doi/10.1073/pnas.1817794116.
  菅平高原実験所昆虫比較発生学研究グループ5名を含む、10カ国、21研究機関の研究者25名からなる国際研究プロジェクト 「1000種昆虫トランスクリプトーム進化コンソーシアム多新翅類サブグループ」は、現生の昆虫106種の約3,000の遺伝子についてトランスクリプトーム解析 を行い、 比較形態学・比較発生学からの評価も踏まえ、多新翅類は単一の系統であることを確証し、極めて信頼度の高い系統関係を提出しました(図1)。 そして、この系統関係に沿って、112の形態ならびに生活型に係る形質を比較検討することで多新翅類の祖先型を描くとともに(図2)、 これらの形質の多新翅類内での進化的変遷を明らかにしました。さらに、昆虫類の翅の獲得に関して、昆虫類の翅が水生生活を通して獲得されたとする有力であった説を否定し、 翅は滑翔用の器官として陸上で獲得されたとする考えを強く支持することになりました。

研究成果のポイント
1. 100種を超える昆虫類の約3,000の遺伝子を解析することで、多新翅類(バッタ目、ゴキブリ目、シロアリ目、カマキリ目、ハサミムシ目、ジュズヒゲムシ目、カカトアルキ目、ガロアムシ目、ナナフシ目、シロアリモドキ目からなる馴染み深い昆虫たちからなるグループでバッタ系昆虫とも呼ばれます)の信頼度のきわめて高い系統樹を構築
2. 得られた系統樹に沿って100を超える形態・生活型に係る形質を比較解析し、現在多様に進化している多新翅類の祖先型を復元>
3. 昆虫類の翅は、水中生活で獲得されたものではなく、滑空器として陸上で獲得されたことを示唆


図1 本研究で導かれた多新翅類各目の類縁関係

図2 本研究から描かれた多新翅類の祖先型

Wipfler, B., H. Letsch, P. B. Frandsen, P. Kapli, C. Mayer, D. Bartel, T. R. Buckley, A. Donath, J. S. Edgerly-Rooks, M. Fujita, S. Liu, R. Machida, Y. Mashimo, B. Misof, O. Niehuis, R. S. Peters, M. Petersen, L. Podsiadlowski, K. Schütte, S. Shimizu, T. Uchifune, J. Wilbrandt, E. Yan, X. Zhou, and S. Simon (2019) Evolutionary History of Polyneoptera and Its Implications for Our Understanding of Early Winged Insects. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS); doi/10.1073/pnas.1817794116.Mtow, S. and R. Machida (2018b).


<2018年>
ミネトワダカワゲラの肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラの詳細を解明
武藤将道(博士課程),町田龍一郎(教授); Arthropod Structure & Development, 47(6): 643-654.
  カワゲラ目の胚発生過程において、卵後極に特殊な構造、すなわち漿膜に由来する肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラが形成されることが知られていました。 しかし、これらの詳細な構造は記載されておらず、その機能についてもよくわかっていませんでした。本研究では、菅平高原に多産するトワダカワゲラ科ミネトワダカワゲラ Scopura montanaを用いて、これらの構造の発生過程を透過型電子顕微鏡により詳細に観察し、初めて明らかにしました。   ミネトワダカワゲラの肥厚漿膜細胞は、1)羊漿膜褶形成にともない胚下に集合した漿膜細胞に由来、2)円筒形で、卵後極を中心として放射状に細胞が配列し、 3)直下に肥厚漿膜クチクラを形成しその後崩壊することが明らかとなりました。また、4)肥厚漿膜クチクラは電子密度の異なる4層で構成されることも示しました。   本研究ではこれまで報告のなかったトワダカワゲラ科の卵膜構造についても記載しております。

Mtow, S. and R. Machida (2018b). Development and ultrastructure of the thickened serosa and serosal cuticle formed beneath the embryo in the stonefly Scopura montana Maruyama, 1987 (Insecta, Plecoptera, Scopuridae). Arthropod Structure & Development, 47(6): 643-654.
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渓流や清流に棲息する二枚貝カワシンジュガイの精子形成を解明
小林収(長野県立篠井高等学校)、冨塚茂和(十日町立里山自然科学館越後松之山「森の学校」キョロロ)、清水将太(松本秀峰中等教育学校)、町田龍一郎(教授); Tissue and Cell, 55: 39-45.
  カワシンジュガイは、幼生期にヤマメのエラに寄生し、稚貝に変態してから河床に着底するという特殊な生態を持つ冷水棲の二枚貝である。
  本研究では、カワシンジュガイの精子形成を組織学的、超微細構造学的に研究した。カワシンジュガイの精巣は多数の腺房によって構成されており、 腺房の内壁にはA型精原細胞が分布した。このA型精原細胞は同調した分裂を繰り返し、多数の細胞が集合したB型精原細胞塊が形成された。腺房の内壁には異なる 発達段階のB型精原細胞塊が多数存在し、不規則に分布していた。この細胞塊は、精子形成が終了するまでセルトリ細胞によって包まれており、その位置は 変わることがなかった。
  これまで、二枚貝の精子形成では、哺乳類と同じく腺房の内壁からルーメンに向かって、発達段階の異なる生殖細胞が直線的に並んでいるものと 理解されてきた。ところが、カワシンジュガイではそれらと全く異なる精子形成が行われていたのであった。イシガイ類における精子形成の研究は 多数報告されているのであるが、そのいくつかで示されている組織学的研究の画像が、カワシンジュガイで得られたものと類似していた。そのため、 カワシンジュガイ科とイシガイ科を含むイシガイ超科では、カワシンジュガイと同様な精子形成が行われることが示唆された。

Osamu Kobayashi, Shigekazu Tomizuka, Shota Shimizu, Ryuichiro Machida(2018) Spermatogenesis of the freshwater pearl mussel Margaritifera laevis(Bivalvia: Margaritiferidae): A histological and ultrastructural study. Tissue and Cell, 55: 39-45.

インド・西ガーツ山脈におけるコショウ野生種の遺伝的集団動態の推定〜過去から将来への遺伝資源保全〜
山崎香辛料振興財団 平成30年度研究助成,2018,代表:津田 吉晃(准教授)

お茶圃場におけるケナガカブリダニの集団構造
日本典秀(農業・食品産業技術総合研究機構)、佐藤幸恵(助教)、屋良佳緒利(農業・食品産業技術総合研究機構)、下田武志(農業・食品産業技術総合研究機構); IOBC-WPRS Bulletin 134: 54-59.
  日本の茶畑で害虫となっているハダニ類を防除するためには、化学農薬の使用は避けられません。しかし環境を考えると、できるだけその散布回数を 減らしたいところです。そこで、害虫ハダニ類を食べてくれるカブリダニ類が頼もしい存在となるのですが、上手にカブリダニ類を害虫管理に使うためには、彼らが どれだけ移動分散しているのかを知る必要があります。本研究では、バンカー植物(農作物の病害虫防除に役立つ天敵を保護するために耕作地周辺に植えられる植物)を 使ってケナガカブリダニを有効活用することを最終目的に、農薬が使われていないお茶圃場における本種集団構造を、マイクロサテライト遺伝マーカーを使って調べました。 その結果、このような撹乱要因の少ない圃場では、ケナガカブリダニの活動範囲はせいぜい5m圏内であり、それほど移動していないということがわかりました。 たとえバンカー植物でケナガカブリダニを温存したとしても、その恩恵は圃場中心までには届かないであろうことから、茶畑にてケナガカブリダニを使った害虫管理を するためには、バンカー植物の利用だけでなく、人工的にケナガカブリダニを分散させるなどの工夫が必要と考えられました。
  日本における生物的防除(病害虫の天敵を使って作物などの害虫をコントロールする方法)の発展と普及を支える3人の研究者 (農業・食品産業技術総合研究機構)が中心となって行った研究です。

Norihide Hinomoto, Yukie Sato, Kaori Yara, Takeshi Shimoda (2018) Population structure of the phytoseiid mite, Neoseiulus womersleyi, in an experimental organic tea field. IOBC-WPRS Bulletin 134: 54-59.

社会性ハダニにおける生殖隔離の発達機構
佐藤幸恵(助教)、坂本洋典(早稲田大学)、後藤哲雄(流通経済大学)、齋藤裕(北海道大学)、Jung-Tai Chao(台湾林業試験所)、Martijn Egas(アムステルダム大学)、望月淳(農業環境変動研究センター); Journal of Evolutionary Biology: 31: 866-881.
  生殖隔離とは、ある生物集団の間で交雑ができないような状況になることをいいます。生殖隔離がなければ、異なる環境におかれて異なる形質をもつ集団に 分化したとしても、出会えば再び一つに戻ることができます。しかし、生殖隔離が確立してしまうと、分化した集団は再び同じ集団に戻ることができません。そのため、 生殖隔離は、種分化や生物多様性を理解するうえで、重要な機構と考えられています。生殖隔離の発達メカニズムとしては、自然選択や遺伝的浮動などにより、集団間で 遺伝的変異が蓄積された結果であるといった、副産物的な見方が主流です。しかしその一方で、生殖隔離は不適な雑種形成の妨げにもつながるため、自然選択により 強化されうることも、明らかになりつつあります。本研究では、山岳域を含むススキ草原に分布し、雄同士の攻撃性の強さが異なる3型をもつススキスゴモリハダニを対象に、 個体群間の生殖隔離のステージと強度、遺伝距離、地理的分布の関係を調査し、本種における生殖隔離の発達メカニズムを検討しました。その結果、生殖隔離の ステージとして、交尾前隔離、交尾後接合前隔離(交尾はするが、受精しない)、接合後隔離(受精はおこるが雑種が正常に発育しない、または不妊)の3つのうち、 交尾後接合前隔離が個体群間の生殖隔離に最も貢献していることを明らかにしました。また、隔離の強さは遺伝距離と正の相関関係にあり、生殖隔離の 発達メカニズムとしては主流の見方を支持する結果が得られました。一方、隔離の強さと地理的分布の間には、はっきりとした関係性はみられませんでしたが、攻撃性の 弱い型では生殖隔離の強化の可能性がみられました。生殖隔離の強化については、更なる調査が必要だと考えています。

Yukie Sato, Hironori Sakamoto, Tetsuo Gotoh, Yutaka Saito, Jung‐Tai Chao, Martijn Egas, Atsushi Mochizuki(2018) Patterns of reproductive isolation in a haplodiploid - strong post‐mating, prezygotic barriers among three forms of a social spider mite. Journal of Evolutionary Biology: 31: 866-881.
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日本産キタカワゲラ亜目全 9 科の卵構造と胚発生過程の概略を解明
武藤将道(博士課程), 町田龍一郎(教授):Arthropod Systematics & Phylogeny, 76: 65-86.
  カワゲラ目はいわゆる川虫と呼ばれる昆虫の仲間であり、菅平高原を代表とする山間部の渓流沿いを中心として、日本全国に分布しています。本目はしばしば 進化的に古いグループであることが示唆されてきたのですが、系統学的な議論の決着は未だについていません。そこで、カワゲラ目の系統学的議論を深め、その グラウンドプランおよび進化的変遷を明らかにしていく研究の第一歩として、日本に生息するキタカワゲラ亜目全 9 科を対象にした比較発生学的研究を行い、 キタカワゲラ亜目の卵構造および胚発生過程の概略を記載しました(材料とした 9 科のカワゲラはすべて菅平で採集したものです!)。
  その結果、「卵表層での胚伸長」という、多新翅類の固有派生形質とされている発生学的特徴が 9 科すべてで確認できたことから、カワゲラ目が多新翅類の 一群であることが強く支持されました。また、キタカワゲラ亜目において、3 タイプの胚運動様式が存在することも明らかになりました。

Mtow, S., R. Machida (2018) Egg structure and embryonic development of arctoperlarian stoneflies: a comparative embryological study (Plecoptera). Arthropod Systematics & Phylogeny, 76: 65-86.
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原始的カマキリ類であるケンランカマキリの卵構造と胚発生の概略を解明
福井眞生子(愛媛大学), 藤田麻里(筑波大学社会連携科サブコーディネーター),富塚茂和(里山科学館越後松之山), 真下雄太(福島大学共生システム理工学研究科), 清水将太(松本秀峰中等教育学校), C.-Y. Lee(マレーシア科学大学), 村上安則(愛媛大学), 町田龍一郎(教授);Arthropod Structure and Development, 47(1): 64-73, https://doi.org/100.1061/j.asd.2017.11.001.
  網翅類(カマキリ目+ゴキブリ目) Dictyopteraの一群であるカマキリ目 Mantodea は私たちに馴染み深い昆虫です。しかし、強靭な卵鞘で守られている卵を 取り出すことが難しいことから発生学的知見は意外にも少ないのです。そして、限られた研究もすべて高等なカマキリ科 Mantidaeに関するもので、カマキリ目の卵形態や 胚発生のグラウンドプランの理解のために、原始系統群での発生学的検討が強く望まれていました。本研究は、原始的カマキリ類のケンランカマキリ科 Metallyticidaeの 卵形態と胚発生の概略を、ケンランカマキリ Metallyticus splendidus を材料に、初めて明らかにしたものです。
  ケンランカマキリの卵は、 1) 腹面に局在する複数の卵門および2) 孵化線により特徴づけられ、これらはカマキリ目のグラウンドプランであると考えられました。 特に卵門の卵腹面への局在は、網翅類の固有派生形質であることが示されました。
  また、ケンランカマキリの胚発生は、1) 小さな円盤状初期胚、2) 典型的な短胚型胚発生、3) 卵表での胚伸長および胚定位、 4) "胚軸非逆転型"の胚運動、 5) 胚発生中期での卵軸を中心とした胚回転(ローテーション)で特徴づけられましたが、これらはカマキリ目の胚発生のグラウンドプランと理解できることが 明らかになりました。ようやく停滞していたカマキリ目の比較発生学的理解が進み始めました。カマキリ目、網翅類のグラウンドプランの再構築のさらなる展開が 期待されます。


Fukuia, M., Fujita, M., Tomizuka, S., Mashimo, Y., Shimizu, S., Lee, C.-Y., Murakami, Y., Machida, R. (2018) Egg structure and outline of embryonic development of the basal mantodean, Metallyticus splendidus Westwood, 1835 (Insecta, Mantodea, Metallyticidae). Arthropod Structure and Development, 47(1): 64-73, https://doi.org/100.1061/j.asd.2017.11.001.
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ススキに寄生するスゴモリハダニ属2種を、新種記載しました
齋藤裕(北海道大学), 佐藤幸恵(助教), Anthony R. Chittenden(北海道大学), Jian-Zhen Lin(中国福建省農業科学アカデミー), Yan-Xuan Zhang(中国福建省農業科学アカデミー);Acarologia 58 (2): 414-429.
  ハダニ類は、クモ綱ダニ目ハダニ科に属する、体長0.5mm未満の植食性の節足動物です。どこにでもいる生き物ですが、観察にはルーペや実体顕微鏡が 必要であり、大学で生物学を専攻しないと扱うことの無いような生物です。しかし、その行動・生態はとても興味深いのです。今回、新種記載したのは、ススキに寄生し、 集団で共同営巣する社会性のハダニ、ススキスゴモリハダニ(Stigmaeopsis miscanthi (Saito))の仲間です。これまでの研究により、ススキスゴモリハダニの雄は、 雌だけでなく巣をめぐって殺し合いをし、ハーレムをつくること、この雄同士の殺し合いの頻度(=雄同士の攻撃性)には地理的変異があることが、さらには、 攻撃性の異なる集団間では遺伝的にも分化していることが明らかになりました。そこで本研究では、形態の違いを見出して、雄同士の攻撃性が低く、 西日本の標高の高いところや東日本といった寒冷なところに分布するタイプをトモスゴモリハダニ(S. sabelisi Saito et Sato n. sp.)、 攻撃性はよくわかっていないけれど、形態的には中間的な攻撃性を示すと思われる中国福建省に分布するタイプをビンスゴモリハダニ (S. continentalis Saito et Lin n. sp.)として、記載しました。前者のトモスゴモリハダニは、殺し合いをするだけでなく、雄同士が協力して、 巣に侵入する天敵(主に捕食性のダニ)から巣の仲間を守る行動が観察されています。そのように、優しく頼もしい性格をもつハダニであることから、 命名には、私の恩師であり、第一著者の齋藤裕先生のご友人でもある、アムステルダム大学(オランダ)教授のモーリス・サベリス博士 (Prof. Maurice W. Sabelis、2015年1月に他界)から名前をいただきました。

Y. Saito, Y. Sato, A.R. Chittenden, J.-Z. Lin, Y.-X. Zhang (2018) Description of two new species of Stigmaeopsis, Banks 1917 (Acari, Tetranychidae) inhabiting Miscanthus grasses (Poaceae). Acarologia 58 (2): 414-429.
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森の消失・分断が希少種に及ぼす影響〜絶滅危惧種クロビイタヤの景観遺伝学的研究からの提言〜
佐伯いく代(筑波大学芸術系),平尾章(助教),田中健太(准教授),永光輝義(森林総合研究所),日浦勉(北海道大学);Biological Conservation (2018) 220: 299-307.
  絶滅危惧種クロビイタヤ(カエデの仲間)について、野生の個体群を対象に遺伝子解析を行い、自生地周辺の森林の消失と分断が、地域ごとの 遺伝的な差異を拡大する傾向があることを解明しました。開発によって森林の分断化が進むと、森林内に残されたクロビイタヤの花粉や種子が他の地域の 個体と交流しづらくなり、遺伝子の流動が阻害されることが原因であると示唆されました。農地や宅地の開発による森林の消失によって遺伝子流動が 起こりづらくなっている地域を中心に森林の復元を進めていくことなどの提案につながります。
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Saeki I, Hirao AS, Kenta T, Nagamitsu T, Hiura T (2018) Landscape genetics of a threatened maple, Acer miyabei : Implications for restoring riparian forest connectivity. Biological Conservation 220: 299-307.
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ニセタルケイソウ属の1種に寄生するツボカビをツボカビ目キトリオミケス科の新属新種として記載
瀬戸健介(東邦大学理学部生命圏環境科学科), 出川洋介(助教);Mycoscience 59: 59-66, DOI:10.1016/j.myc.2017.08.004.
  近年、水圏生態系における藻類寄生性ツボカビの生態学的機能が注目されています。しかし、その生態学的な重要性に反し、ツボカビの多様性の 評価は未だ十分に進められていません。特に、寄生性ツボカビは、培養が困難であることから分類学的研究が遅れており、DNAデータの不足が 問題となっています。
  本研究では、千葉県の手賀沼より得られたニセタルケイソウ属の1種Aulacoseira granulataに寄生するツボカビについて、光学顕微鏡による 菌体の形態の観察、透過型電子顕微鏡による遊走子の微細構造の観察、分子系統解析を行い、その分類学的位置付けについて検討しました。その結果、本菌は、 既知のツボカビいずれとも形態的に区別され、未記載種と同定されました。また、本菌は、ツボカビ目キトリオミケス科(Chytridiales, Chytriomycetaceae)に 属すが、科内のいずれの属とも系統的に区別され、鞭毛基部周辺の構造が既知属のものと異なることが分かりました。以上より、本菌に対して新たに Pendulichytrium属を提唱し、P. sphaericumとして記載発表しました。

  本研究で用いたP. sphaericumの顕微鏡画像が、掲載雑誌のMycoscienceの2018年1・2月号のカバー写真に選ばれました。

Seto K, Degawa Y (2018) Pendulichytrium sphaericum gen. et sp. nov. (Chytridiales, Chytriomycetaceae), a new chytrid parasitic on the diatom, Aulacoseira granulata. Mycoscience 59: 59-66, DOI:10.1016/j.myc.2017.08.004
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<2017年>
昆虫類の翅の起源を発生学が解明‐側板の亜基節起源説の実証を通して‐
真下雄太(JSPS特別研究員PD;現 福島大学共生システム理工学研究科), 町田龍一郎(教授);Scientific Reports  DOI: 10.1038/s41598-017-12728-2.
1. 昆虫類の側板が肢の再基部節「亜基節」に由来することを、発生学の立場から確証
2. 背板と肢の境界(背板‐肢境界boundary between tergum and appendage: BTA)を確定
3. BTAが確定されたことにより、翅の起源に関する長い間の議論に決着:翅本体は背板、翅の関節や筋肉は肢由来であると論証、翅の「二元起源説」を確証
  昆虫比較発生学研究室の町田龍一郎教授、真下雄太非常勤研究員は、 フタホシコオロギの卵から成虫にいたる全発生過程を、走査型電子顕微鏡を用いて詳細に検討しました。その結果、証拠立てが不十分だった側板の 「亜基節起源説」(側板は肢の最基部節である亜基節に由来するという仮説)に、初の説得力のある形態学的証拠を提出しました。また、詳細な発生過程の 追跡により、背板と肢の境界(背板‐肢境界BTA)を確定することに成功しました。以上の結果から、翅の本体はBTAより背方の領域、すなわち背板の 側方への拡張部である「側背板」に由来する一方で、翅の関節や翅を動かす筋肉はBTAより腹方の領域、つまり肢(最基部節である亜基節、すなわち側板)に 由来することが示されました。その結果、翅の「二元起源説」が強く支持され、昆虫の翅の起源に関する長い論争に決着をつけることになりました。
  本研究は、長らく議論されてきた、昆虫類の進化と繁栄にとってきわめて重要な「側板」および「翅」の由来・起源を、発生学的見地から 解明したものです。

フタホシコオロギの成虫(A)と、中期胚(B)、1齢幼虫(C)と成熟(11齢)幼虫(D)の中胸節〜後胸節の拡大。中胸節のみ背板をピンク、 肢の最基部節である亜基節をブルーで示している。矢印は背板‐肢境界(BTA)。成熟幼虫(D)で分かるように、胸部の側面を被う側板は肢の 亜基節に由来する。また、翅(翅芽)本体は背板に起源する一方、翅の基部関節(点線で示した領域)は側板、つまり亜基節に由来する。また、 翅の筋肉系も亜基節環節の内在筋(側板の内側にある)起源である。このように、翅システムは、「背板」と「肢の基部環節(亜基節、つまり側板)」に 由来することになり、翅の「二元起源説」がつよく支持される。成虫(A)で「中胸側板」、「後胸側板」と示した領域は、肢の最基部節である 亜基節に由来した側板で、その上端に背板から形成された翅本体が関節する。
Mashimo, Y., Machida, R. (2017) Embryological evidence substantiates the subcoxal theory on the origin of pleuron in insects. Scientific Reports  DOI: 10.1038/s41598-017-12728-2.
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原始的ゴキブリ類ムカシゴキブリ科ルリゴキブリの胚発生を解明
藤田麻里(JSPS特別研究員PD;現 筑波大学社会連携科サブコーディネーター), 町田龍一郎(教授);Journal of Morpholog 278: 1469-1489, DOI:10.1002/jmor.20725.
  比較発生学は各生物群のグラウンドプランの構築や系統学的諸問題を解決する上で、重要な方法の一つです。本研究では、系統学的議論が未だ 定まらないゴキブリ目Blattodeaの比較発生学的研究の第一歩として、最原始系統群としばしば目され、謎めいたグループの一つであるムカシゴキブリ科 Corydiidae、その卵構造と胚発生過程の詳細を初めて検討しました。得られた知見を他のグループに関する先行研究と比較したことで、「卵腹面に局在する 卵門(精子の侵入孔)」は網翅類(=カマキリ類+ゴキブリ類+シロアリ類)のグラウンドプランであること、そして、「共生細菌の 凝集塊"マイセトム"の存在」はゴキブリ目のグラウンドプランであることが解りました。また、多新翅類の固有派生形質とされる「一対の高密度細胞領域の 融合による胚形成」は、本研究により、ゴキブリ目で初めて詳細に示されました。
  さらに、当グループが"胚軸非逆転型"の胚運動様式であることが明らかとなったことで、これまでゴキブリ目内で確認されていた "胚軸逆転型(R)"と"胚軸非逆転型(N)"の二つの異なる胚運動様式は、ゴキブリ目内の2亜目、すなわちゴキブリ亜目とオオゴキブリ亜目の相違であることが 示唆されました。ここから、網翅類にまで視点を広げ検討したところ、胚運動による網翅類の系統学的理解として、 「網翅類=カマキリ目(N)+ゴキブリ目[=オオゴキブリ亜目(N)+ゴキブリ亜目(R)+シロアリ目(R)」を導きました。
  本研究は、網翅類および多新翅類のグラウンドプランおよび系統進化の再構築に資するに新たな基盤を、比較発生学の視点から 提供することを目的に行われました。今後、より多くのグループを対象とした、比較発生学的、系統進化学的議論の展開が期待されます。

本研究はJournal of Morphology 2017年11月号の表紙に選ばれました。
Fujita, M., Machida, R. (2017) Embryonic development of Eucorydia yasumatsui Asahina, with special reference to external morphology (Insecta: Blattodea, Corydiidae). Journal of Morpholog, 278: 1469-1489, DOI:10.1002/jmor.20725.

異質倍数体の生物集団の遺伝的多型を低コストで効率的に検出する方法を開発
平尾章(助教), 恩田義彦(理化学研究所/横浜市立大学), 田中健太(准教授)らグループ;American Journal of Molecular Biology 7: 1031-1046.
  異質倍数体の生物は、近縁種間の交雑に由来する2つ以上の異なるゲノムセットを持つために、二倍体種に比べると遺伝解析のコストや労力が かかり、遺伝学的な研究が遅れています。本研究では、異質倍数体の集団遺伝学的な解析の効率化を目的とし、シロイヌナズナ属の異質倍数体種 ミヤマハタザオを材料に用いて、集団の遺伝的多型を低コストで検出する方法を開発しました。多数のDNAからなる混合サンプルの配列を次世代シーケンスで 丸ごと決定するPool-Seq法を活用して、24集団について8候補遺伝子をスクリーニングしたところ、異なる交雑親に由来する重複遺伝子(ホメオログ)を 判別した上で、100以上の多型サイトを検出することに成功しました。Pool-Seq法を異質倍数体に適用した初めての研究であり、その有効性が示されました。
Hirao AS, Onda Y, Shimizu-Inatsugi R, Sese J, Shimizu KK, Kenta T (2017) Cost-effective discovery of nucleotide polymorphisms in populations of an allopolyploid species using Pool-Seq. American Journal of Molecular Biology 7: 1031-1046.
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温暖化はススキの病原菌の有害効果を強めうる
鈴木亮(琉球大学),長岡講二(東御市)Écoscience (online published).
  菅平高原実験所内のススキ草原では、ススキに感染する2種類の病原菌が知られています。これらの病原菌の有害性が、温暖化した時に 増大するのかを実験的に調べました。草原内に温暖化実験装置を設置し、装置の内外で感染したススキのシュートと感染していないシュートそれぞれの 生存と成長を比較しました。その結果、感染したシュートの病気の兆候は、温暖化装置内で約1週間早く現れました。感染シュートは、非感染シュートより 生存率や成長(葉の数やシュート長)が低くなりました。また、その負の影響は温暖化装置内で特に強く現れました。このことから、病原菌のススキへの 有害効果は、温暖化装置内でより増大したことが示唆されます。ススキは草原の最優占種であり、草原全体のバイオマスや多様性に強い影響を及ぼしています。 温暖化によって病原菌の効果が増大すれば、ススキの減少を介して草原全体に大きな変化をもたらす可能性があると考えられます。
Ryo O. Suzuki, Kouji Nagaoka (2017) Warming can enhance the detrimental effect of pathogens on a host plant, Miscanthus sinensis, in a cool-temperate montane grassland in Nagano, Japan. Écoscience.
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北極圏-高山帯の植物は緯度が低いほど遺伝的多様性が減少している
平尾章(助教)グループ;Journal of Biogeography (2017) doi:10.1111/jbi.13085.
  北半球の高緯度ツンドラから中緯度山岳にかけて広く分布する周北極-高山植物の遺伝的多様性が、緯度の低下に沿って、減少していることを 明らかにしました。 対象種の世界的な分布の最南限にあたる本州中部の山岳地域では、顕著な遺伝的多様性の低下が認められましたが、その遺伝的固有性は 高いことも明らかになりました。 周北極-高山性の生物種では一般的な種とは逆のパターンが実証されました。温暖化に伴う北方系の生物の適応進化や 分布の変化を考える上でも示唆に富む成果です。
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Hirao AS, Watanabe M, Tsuyuzaki S, Shimono A, Li X, Masuzawa T, Wada N (2017) Genetic diversity within populations of an arctic-alpine species declines with decreasing latitude across the Northern Hemisphere. Journal of Biogeography doi:10.1111/jbi.13085.
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野生哺乳動物の餌としてのブナの堅果量推定−長野県上田市菅平高原の小規模ブナ天然林におけるブナ結実状況
正木大祐(技術職員),長岡講二(東御市),高木悦郎(首都大学東京);Japanese Journal of Environmental Entomology and Zoology (2017) 28: 79-85.
  ブナの堅果生産量には,著しい豊凶があり,豊凶の状況,予測,機構に関して,多くの研究が行われてきました.しかし,豊凶は林分間で ばらつくことがあるにもかかわらず,小規模林分における堅果生産量のモニタリングは,十分ではありませんでした.また,ブナの豊凶に関連した,ニ ホンツキノワグマやイノシシの人里への出没が社会問題となっています.そこで,2012年から2014年に,長野県上田市菅平高原の大洞地区にある,孤立 した小規模天然ブナ林において,リター・シードトラップを用いた,雄花序量と堅果量の調査を行いました.トラップ内容物の解析から,雄花序を全く 付けない年があることが明らかになりました.また,雄花序を全く付けない年の堅果量は,ほぼ0でした.このことから,大洞地区での豊凶は,雌雄で同 調していることが示唆されました.また,少数のトラップによる調査でも,その年の堅果量がほぼ0である場合には,そのことを夏までの雄花序量に基づ いて予測でき,ニホンツキノワグマの人里への大量出没を予測できることが示唆されました.

  本研究は,文部科学省特別教育研究費「地球環境再生プログラム―中部山岳地域の環境変動の解明から環境資源再生をめざす大学間連携事業 ―」の助成を受け,技術職員と技術補佐員が中心となって行った研究です.
D Masaki, K Nagaoka, E Takagi(2017) Estimation of crop size as a food resource for wild mammals: Crop size of Japanese beech (Fagus crenata) at a small natural stand in the Sugadaira highland, Ueda City, Nagano Prefecture, Japan Japanese Journal of Environmental Entomology and Zoology (2017) 28: 79-85.

ササ類の一斉開花・枯死が下層植生の多様性に与える影響の遷移段階による違いの解明
科学研究費(奨励研究), 2017, 代表:金井 隆治(技術専門職員)

繁殖における雄の代替戦術の進化と母性効果の役割について
科学研究費(基盤研究C),2017-2019,代表:佐藤幸恵(助教)

オオブタクサの侵入が植物相と動物相に与える影響について:菅平高原のススキ草原における事例
佐藤幸恵(助教), 真下雄太(福島大学), 鈴木亮(琉球大学), 平尾章(助教), 高木悦郎(首都大学東京), 金井隆治(技術専門職員), 正木大祐(技術職員), 佐藤美幸(技術職員), 町田龍一郎(教授);Journal of Developments in Sustainable Agriculture (2017) 12: 52-64.
  世界中で外来植物として問題となっているオオブタクサの侵入が、植物群集と(地上部)節足動物群集に与える影響を、菅平高原実験所が所有 するススキ草原(半自然草地)にて調査しました。この草原は、年一回の草刈りにより80年以上維持されてきましたが、10年ほど前からオオブタクサが侵入 し、一部の場所で繁茂するようになりました。そこで、オオブタクサ区とススキ区で植物相と節足動物相の調査を行い、比較したところ、植物群集に与える 影響として、先行研究と同様、植物の種数が減少するといった負の効果が懸念されました。一方、節足動物群集に与える影響としては、節足動物の個体数が 有意に増え、種数も増えるといった正の効果とも受け取られる結果がえられました。最後に、なぜこのような結果が得られたのかを、節足動物の視点から先 行研究を参考に議論しています。

  本論文は、平成26年9月に当実験所が下田臨海実験センター(筑波大学)と連携して行った「全国公開 海山連携公開実習」で得られたデータに 基づき執筆したものです。受講した学生の皆様(奥津君、池田君、相羽君、山田君)、TAの皆様、その他実習をサポートしてくださった皆様、英文校閲してく ださったレアーン先生、ご協力ありがとうございました。本論文の謝辞に、皆様への感謝の気持ちを述べさせていただいております。また、本論文内容の参 考として、当実験所で発行している「生き物通信 第48号(2016年6月)」も、是非ご覧ください。
Y Sato, Y Mashimo, RO Suzuki, AS Hirao, E Takagi, R Kanai, D Masaki, M Sato and R Machida(2017) Potential impact of an exotic plant invasion on both plant and arthropod communities in a semi-natural grassland on Sugadaira Montane in Japan. Journal of Developments in Sustainable Agricultures 12: 52-64.
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非モデル生物である単数倍数体ハダニ(ミツユビナミハダニ)を対象に雑種崩壊メカニズムを検証しました
Bram Knegt(アムステルダム大学), Tomos Potter(アムステルダム大学), Nigel Pearson(アムステルダム大学), 佐藤 幸恵(助教), Heike Staudacher(アムステルダム大学), Bernardus C. J. Schimmel(アムステルダム大学), E. Toby Kiers(アムステルダム自由大学), Martijn Egas (アムステルダム大学);Heredity (2017) 118: 311-321.
  ハダニは体長1mm未満の植食性節足動物であり、飼育が容易で世代期間が短いなど、進化を研究する上で 便利な生き物です。そういった便利な生き物としてはショウジョウバエが有名ですが、ショウジョウバエが2倍体であるのに 対して、ハダニは単数倍数体(雄がハプロイド(n)で雌がディプロイド(2n))であり、アリ類やハチ類といった 単数倍数体生物における遺伝や進化を知る上で、また、2倍体のショウジョウバエで得られた知見の一般性を確認するうえで、 とても有用な存在です。しかしそれだけではなく、単数倍数体だからこそ、倍数体で観察された現象をより明確に検証できるといった 利便性もあります。例えば、ハダニでは雄がハプロイドであることから、雑種雄に致死や不妊がある場合、優性や劣性といった 対立遺伝子間の相互作用の影響に悩まされることなく、「雑種崩壊は遺伝子座間に生じる相互作用によりおこる」とした ベイトソン・ドブジャンスキー・ミュラー(BDM)モデルを検証することができます。本研究では、個体群間で雑種雄の致死 といった雑種崩壊が不完全な形で観察されるミツユビナミハダニを対象に、マイクロサテライトマーカーを用いてBDMモデルを 検証しました。その結果、BDMモデルの予測通り遺伝子座間でネガティブな相互作用がみられただけでなく、ポジティブな 相互作用も検出され、また、核と細胞質間の影響も検出されたことから、雑種致死にはBDMモデルだけではなく、他にも様々な メカニズムが関与していることが示唆されました。

  アムステルダム大学の集団生物学研究室の若きホープ(博士コースの学生さん)が中心になって行った研究です。 また、本研究で用いたミツユビナミハダニの写真が、掲載雑誌Heredityの2017年4月号の表紙に選ばれました。

B Knegt, T Potter, NA Pearson, Y Sato, H Staudacher, BCJ Schimmel, ET Kiers and M Egas (2017) Detection of genetic incompatibilities in non-model systems using simple genetic markers: hybrid breakdown in the haplodiploid spider mite Tetranychus evansi. Heredity 118: 311-321.
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スゴモリハダニ属7種の分子同定手法の確立と系統関係に関する研究
坂本洋典(茨城大学), 松田朋子(茨城大学), 鈴木玲子(茨城大学), 齋藤裕(中国福建省農業科学アカデミー), Jian-Zhen Lin(中国福建省農業科学アカデミー), Yan-Xuan Zhang(中国福建省農業科学アカデミー), 佐藤幸恵(助教), 後藤哲雄 (茨城大学);Systematic & Applied Acarology (2017) 22:91-101.
  体長1mm未満の植食性節足動物であるハダニ類の中には、集団で共同営巣し、子育てする社会性のハダニがいます。その社会性 ハダニを含むスゴモリハダニ属は、かつては単一種だと考えられていましたが、近年の研究により、日本国内に分布するものだけでも行動・ 生態が異なる5種1変異型に分類できることが明らかになりました。さらにこの属のハダニが東南アジア、中国、韓国においても分布し、日 本と同様に多くの種に分化していることがわかりつつあります。これまで、11種が記載されてきましたが、見つけたスゴモリハダニがどの 種なのか特定するためには、スライド標本を作成して顕微鏡下で観察し、形質を調べるなど、専門的知識と経験が必要となります。本研究 では、だれでも同定できる手法として、遺伝子配列を使った同定手法の確立を、本属7種を対象に試みました。その結果、行動・生態・形態 の変異の研究が現在進められているススキスゴモリハダニを除けば、ミトコンドリアDNAのCOI領域やリボソームRNAの18Sと28S領域の遺伝子 配列で種ごとにグループ分けすることが可能であることがわかりました。また、ヴォルバキアやカルディニウムといった宿主の生殖システ ムの操作可能な共生細菌の関与もみられるなど、おもしろいことがいろいろとわかってきました。
  もともとはアリ(もっと発展した社会性をもつ真社会性昆虫)の研究をされている坂本洋典さんが、その知識とスキルを活か して植物ダニ学分野で活躍された研究の一つです。今後の活躍が期待されます。
Sakamoto H, Matsuda T, Lesna I, Suzuki R, Saito Y, Lin J-Z, Zhang Y-X, Sato Y & Gotoh T (2017) Molecular identification of seven species of the genus Stigmaeopsis (Acari: Tetranychidae) and preliminary attempts to establish their phylogenetic relationship. Systematic & Applied Acarology 22(1): 91-101.
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<2016年>
捕食性ダニの体サイズと避難場所の入り口の大きさが、ココナッツを加害するココナッツダニの生物的防除の成功のカギとなる
Fernando R. da Silva(アムステルダム大学), Gilberto J. de Moraes(サンパウロ大学), Izabela Lesna(アムステルダム大学), 佐藤 幸恵(助教), arlos Vasquez (Universidad Centroccidental Lisandro Alvarado), Rachid Hanna (国際熱帯農業研究所), Maurice W. Sabelis(アムステルダム大学), Arne Janssen (アムステルダム大学);BioControl 61:681-689.
  農業害虫の多くが、植物体の微細構造を、捕食者から身を守る避難場所として使っています。例えば、ココナッツを加害する フシダニ類であるココナッツダニ(Aceria guerreronis)は、捕食性カブリダニ類が入ることのできないココナッツの花被と果実の間に 身をひそめ、そこでココナッツを加害しています。一方、捕食性のカブリダニであるNeoseiulus paspalivorusは、ほかの 捕食性カブリダニ類より体サイズが小さいことから、ココナッツダニをコントロールする天敵として期待されています。しかし それでもココナッツダニよりは体が大きく、若いココナッツでは花被が果実にぴったりとくっついているため、果実が熟成して 花被がある程度開いてこないと、花被の下に侵入してココナッツダニを捕食することができません。でも早い時点でココナッツダニを 捕食してもらわないと、ココナッツダニが爆発的に増えてしまい、捕食の効果は焼け石に水の状態になってしまいます。 そこで本研究では、様々な大きさのPVC ブレード(ポリ塩化ビニルでできた差込片)を花被の下に差し込むことで、ココナッツダニの 避難場所の入り口を広げてみました。その結果、PVC ブレードを差し込んだ場合、差し込まなかった場合に比べて、 N. paspalivorusの花被下への侵入が数週間早く観察され、かつココナッツダニの個体数の増加も抑えることができました。 今後は改良を加えたうえで、PVC ブレードの実用化につなげたいと思っています。
da Silva FR, de Moraes GJ, Lesna I, Sato Y, Vasquez C, Hanna R, Sabelis MWJanssen A (2016) Size of predatory mites and refuge entrance determine success of biological control of the coconut mite. BioControl 61:681-689.
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クロギリスの卵構造の詳細を解明
真下雄太(福島大学),福井眞生子(愛媛大学),町田龍一郎(教授);Arthropod Structure & Development, 45: 637-641.
  バッタ目クロギリス科の卵構造の詳細を明らかにし、バッタ目全体を網羅した卵構造の比較から、 キリギリス亜目とバッタ亜目がそれぞれ独自の卵門の分布パターンをもつことを示しました。また、直翅系昆虫では 卵後極が吸水に特化していそうな形状になることが多いのですが、今回の報告ではキリギリス亜目で初めて そうした構造が観られたことも報告しています。
Mashimo, Y., Fukui, M., Machida, R. (2016) Egg structure and ultrastructure of Paterdecolyus yanbarensis (Insecta, Orthoptera, Anostostomatidae, Anabropsinae). Arthropod Structure & Development, 45: 637-641.
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若い雄は弱いからではなく未来があるからこそ戦わずに代替戦術をとる!
佐藤幸恵(助教), Peter T Rühr(アレクサンダーケーニッヒリサーチミュージアム), Helmut Schmitz(ボン大学), Martijn Egas(アムステルダム大学), Alexander Blanke(ハル大学);Ecology & Evolution 6: 7367-7374.
  子孫を残すために雌をめぐって雄同士が戦う行動は、ライオンやサケ、クワガタなど、様々な動物でみられます。一方で、 スニーキングやサテライトといった、ライバルを欺くことで戦わずに雌に近づき子孫を残す行動(代替戦術)も、しばしば観察されます。 戦うのか、それとも代替戦術をとるのかは、遺伝的に決まっている場合も多々ありますが、一般的には状況や環境によって決まる ケース(条件戦略)の方が多いと考えられています。特に、条件戦略の場合、体が小さいなど戦いに不利な形質や状況にあると 代替戦術をとるといったように、戦いに負けるような弱い雄が少しでも子孫を残すために進化した行動(Best of a bad job、 悪条件の中最善を尽くす行動)として捉えられることが多いです。しかし、ナミハダニでは、若い雄がスニーカー雄(代替戦術をとる雄)に なる傾向があるのだけれど、これは若い雄が弱いからではなく、闘争のコストやリスクを軽減することにより将来の繁殖を促進し、 生涯の繁殖成功度を高めているのではないかということが、本研究により示唆されました。

  当センターに配属されて3年目となりますが、ここに来なければ出会うことのなかった異分野で 異国の研究者たちとのコラボにより、実現した研究です。
Sato Y, Rühr PT, Schmitz H, Egas M, Blanke A (2016) Age-dependent male mating tactics in a spider mite - A life history perspective. Ecology & Evolution 6: 7367-7374.
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侵入害虫ミツユビナミハダニは競争相手のナミハダニよりも同種びいき?
佐藤幸恵(助教), Juan M. Alba(アムステルダム大学), Martijn Egas(アムステルダム大学), Maurice W. Sabelis(アムステルダム大学);Experimental and Applied Acarology 70: 261-274.
  ナス科植物に寄生するミツユビナミハダニは、南アメリカ原産ではあるものの、ここ20 年間で急速に世界中に分布を広げ、 侵入害虫として世界各国で問題となっているトマトの害虫です。一方、同属に属するナミハダニもトマトの害虫であり、 (主にヨーロッパで)野外や温室にて両種が一緒にいるところを観察されていることから、ミツユビナミハダニが侵入害虫として 成功する際に乗り越えなければならないハードルの一つに、ナミハダニとの寄主植物をめぐる競争があると考えられています。 そこで本研究では、ミツユビナミハダニとナミハダニの競争関係について、シェルター共有(ハダニ類の多くは、クモ類のように糸を 吐くことができ、その糸を複雑または規則的に張ることにより外敵から身をまもるシェルターを作り利用しています)と植物の 誘導防衛の視点から調べてみました。外敵から身を守ることができるため、同種間だけでなく異種間でもシェルターを共有することが、 ナミハダニやカンザワハダニで報告されています。しかし、ナミハダニはミツユビナミハダニともシェルターを共有する一方で、 ミツユビナミハダニは同種とナミハダニを区別し、ナミハダニとのシェルター共有は避けることがわかりました。また、 ミツユビナミハダニの方がナミハダニと比べて集合性が高いこともわかりました。ナミハダニの多くの系統は、トマトを 加害することにより植物体の防御反応を誘導し、植食性節足動物にとって不適な(質の低い)植物体にしてしまうけれど、 ミツユビナミハダニは誘導された防御反応を制御し、好適な植物体を維持することができます。この識別能力や高い集合性は、 ミツユビナミハダニが好適に保っている植物体をナミハダニに利用されずに仲間うち(同種)で共有するためのものであり、 この協力関係でもってナミハダニとの競争に打ち勝っているのではないかと考えられました。
Sato Y, Alba JM, Egas M, Sabelis MW (2016) The role of web sharing, species recognition and hostplant defence in interspecific competition between two herbivorous mite species. Experimental and Applied Acarology 70: 261-274
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スゴモリハダニ属のハダニ8種における営巣行動の変異
齋藤裕(中国福建省農業科学アカデミー/北海道大学), Yan-Xuan Zhang(中国福建省農業科学アカデミー), 森光太郎(北海道大学), 伊藤桂(高知大学), 佐藤幸恵(助教), Anthony R. Chittenden(北海道大学), Jian-Zhen Lin(中国福建省農業科学アカデミー), Younghae Chae(高知大学), 坂神たかね(ホクサン株式会社), 佐原健(岩手大学);NatureWissenschaften 103 (9-10): Article 87.
  ハダニ類は体長1mm未満の植食性の節足動物であり、その一部(ナミハダニなど)は農業害虫として知られているものの、 中には集団で共同営巣し、集団で子育てするような社会性のハダニがいます。その社会性ハダニとして有名なのが、スゴモリハダニ属。 しかし、本属に属するハダニは皆一様に共同営巣しているわけではなく、寄主植物を同じにするものであっても巣サイズに違いがみられ ます。本研究では、この巣サイズの違いは背中の毛の長さと関係していること(遺伝的基盤をもつこと)、巣の大きさが巣の存続期間に 影響を与えること、それと関係して巣の拡大方法(増築or 新築)や糞場(共同トイレの場所)も変わってくることを示しました。これら 変異は、対捕食者戦略の分化によって生まれたのではないかと考えています。ハダニ類は、ルーペや実体顕微鏡無しでは存在を認識する のが難しいほど小さい(ミクロな)存在ですが、共同トイレをもつなど社会の在り方は、我々とそんなに変わらないのかもしれません。
  これは、学生・院生時代の恩師であり、ハダニ類における社会生物学のパイオニアである齋藤先生が中心となって行った研究です。
Saito Y, Zhang Y-X, Mori K, Ito K, Sato Y, Chittenden AR, Lin J-Z, Chae Y, Sakagami T, Sahara K (2016) Variation in nesting behavior of eight species of spider mites, Stigmaeopsis having sociality. NatureWissenschaften 103 (9-10): Article 87
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長野県冷温帯山地草原における優占種ワラビの継続的採集は、草原群集を変化させ植物の種多様性を高めうる
鈴木亮(助教),田中健太(准教授),佐藤美幸(技術職員),正木大祐(技術職員),金井隆治(技術職員);Ecological Research (2016) 31: 639-644.
  伝統的な山野草採集は今日の日本では減少しているが、そうした生態系の過小利用や放棄が生物多様性の減少につながる 可能性がある。そこで、様々な資源として利用されてきたワラビの継続採集が、草原植生の種多様性、生産性(バイオマス)、群集組成に どのような影響を与えるかを検証した。ワラビの継続採集が長年禁止されてきた菅平高原実験センター草原内で、ワラビ採集区と 採集禁止区を設け、ワラビ採集区では毎年地域住民によって自由なワラビ採集を行った。4年間採集を継続した結果、種多様性は ワラビ採集区で高くなった。一方、ワラビのバイオマスは採集区で減少したのにも関わらず、全体のバイオマスは処理間で差がなかった。 また群集組成には違いが見られ、採集区で直立型植物や在来種が特に増加した。以上の結果は、継続的なワラビ採集は草原の生産性を 維持しながら種多様性を高める可能性を示唆する。
Suzuki RO, Kenta T, Sato M, Masaki D, Kanai R (2016) Continuous harvesting of a dominant bracken alters a cool-temperate montane grassland community and increases plant diversity in Nagano, Japan. Ecological Research 31: 639-644
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ジュズヒゲムシ目の直腸腺、初めて微細構造が明らかに
伊シエナ大学R. Dallai グループ, 真下雄太(元センター研究員), 町田龍一郎(教授), R.G. Beutel(独イエナ大学教授);Arthropod Structure & Development, 45: 380-388.
  ジュズヒゲムシ目は最も不可解な昆虫目ですが、日独伊の著者らによる共同研究により本目の理解は長足の進歩を遂げています。 その共同研究の一環として、本論文はジュズヒゲムシ目の直腸腺rectal padを検討しました。これはジュズヒゲムシ目の直腸腺の初の 微細構造学的研究です。その微細構造の詳細とともに、ゴキブリ目、シロアリ目、そしてアザミウマ目の排泄器官と特徴を 共有していることが明らかになりました。

Dallai, R., D. Mercati, Y. Mashimo, R. Machida and R.G. Beutel (2016) The fine structure of the rectal pads of Zorotypus caudelli Karny (Zoraptera, Insecta). Arthropod Structure and Development, 45: 380-388
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チャノコカクモンハマキのお茶の葉の齢に対する産卵選好性は生まれたて幼虫のパフォーマンスと関係しているのか?
Narisara Piyasaengthong(研究員),佐藤幸恵(助教),木下奈津子(助教),戒能洋一(教授);Applied Entomology and Zoology 51: 363-371.
  昆虫でも子育て行動は見られるが、多くの種は子育てをせず、卵を産みっぱなしである。しかし、どこに産卵するかにより、 母親は自分の子孫の生存確率を高めることができる。特にチョウ類では、幼虫(芋虫)ステージは分散が非常に限られるので、 産卵場所は幼虫の生き残りにとても重要だと思われる。本研究では、お茶の害虫であるチャノコカクモンハマキを対象に、 母親が好んで産卵した場所では、好まなかった場所よりも、生存や発育といった幼虫のパフォーマンスは高いのかどうかを調べた。 その結果、チャノコカクモンハマキの雌成虫は、古い葉と若い葉をにおいでかぎ分け、古い葉に好んで産卵する一方で、 幼虫のパフォーマンスは若い葉を食した時の方が高く、また実際に、幼虫は若い葉を好むことがわかった。 では、古い葉に産み付けられた卵から孵化した幼虫は古い葉にあまんじているのかというと、 たくましくも短時間のうちにお茶の木をよじ登って(古い葉はたいてい低いところにある)、若い葉に自ら移動することがわかった。 しかし、なぜ母親は、初めから幼虫のパフォーマンスの高い若い葉に卵を産み付けないのだろうか?謎を解くためには更なる研究が 必要である。

こちらも、今年の3月に筑波大学(生命環境科学研究科)にて博士号を取得したタイからの留学生が中心となって行った研究です。 今後の活躍が期待されます。
Narisara Piyasaengthong, Yukie Sato, Natsuko Kinoshita, Yooichi Kainoh (2016) Oviposition preference for leaf age in the smaller tea tortrix, Adoxophyes honmai (Lepidoptera: Tortricidae) as related to performance of neonates. Applied Entomology and Zoology 51: 363-371.
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チャノコカクモンハマキの性特異的エリシターがお茶のハマキコウラコマユバチ誘引物質生産を誘導する
Narisara Piyasaengthong(研究員),木下奈津子(助教),佐藤幸恵(助教),戒能洋一(教授);Applied Entomology and Zoology 51: 353-362.
  植食者に食べられたり卵を産み付けられた植物は、一方的に加害されるわけではない。ダメージに反応して、 植食者に害となる毒物質を生産したり、その植食者を食べてくれる、または寄生してくれるような天敵を誘引するような物質を生産して、 自分を守ろうとする。チャノコカクモンハマキはお茶の害虫であるが、本種がお茶の葉に卵を産み付けるとお茶は反応して 何らかの物質を生産し、それをコンタクトケミカルにその天敵である寄生蜂、ハマキコウラコマユバチが害虫の卵の場所を 探りあてることが知られている。本研究では、まずはその現象を確かめた上で、チャノコカクモンハマキの既交尾雌の卵巣や 受精嚢といった繁殖器官をすりつぶしたものをお茶の葉に塗り付けても同様の現象がおこることを明らかにした。 また、そのタイミングや必要濃度といった詳細を調べるとともに、そのエリシターを特定するために、 未交尾雌の繁殖器官や雄の腹部をすりつぶしたものとの反応の違いを調べた。 その結果、雄の腹部をすりつぶしたものでは誘導されなかったが、未交尾雌の繁殖器官をすりつぶしたものでも多少は誘導されたため、 エリシターは性特異的であると判断された。

  これは今年の3月に筑波大学(生命環境科学研究科)にて博士号を取得したタイからの留学生が中心となって行った研究です。
Narisara Piyasaengthong, Natsuko Kinoshita, Yukie Sato, Yooichi Kainoh (2016) Sex-specific elicitor from Adoxophyes honmai (Lepidoptera: Tortricidae) induces tea leaf to arrest the egg-larval parasitoid Ascogaster reticulata (Hymenoptera: Braconidae). Applied Entomology and Zoology 51: 353-362.
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担子菌系酵母 Krieglsteinera sp. の菌寄生に関する研究
長野県科学振興会研究助成,2016,代表:山田宗樹(生命環境科学研究科 D1)

中部山岳地域における地衣内生菌の多様性調査および共生藻との相互作用の解明
長野県科学振興会研究助成, 2016, 代表:升本宙(生命環境科学研究科 M2)

表面保護薄膜(ナノスーツ)法を昆虫比較発生学に応用
藤田麻里(日本学術振興会PD),Alexander Blanke(JSPS外国人特別研究員・ハル大学),野村周平(国立科学博物館),町田龍一郎(教授);Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 50: 7-10 .
  走査型電子顕微鏡は物質表面の高解像度観察を可能にしてきましたが、観察には高真空環境が必要です。このため 生物試料では、固定、脱水、乾燥、金属蒸着といった前処理が不可欠であり、これらプロセッシングの過程で生じる試料へのダメージや 変形に苦悩することがしばしばです。昆虫発生学でも同様に、試料となる胚の脆弱性により、これらアーティファクトはときに 重大な問題となります。
  そのような中、近年のバイオミメティクス分野では、高真空環境下でも生物体内の気体や液体の放出を防ぐ、 「表面保護薄膜(ナノスーツ)」の作成法の開発に成功しました。この方法では、上記のようなプロセッシングを施さずに、 短時間、試料を処理液に浸漬し、生きたままの試料を変形させることなく、その表面微細構造の走査型電子顕微鏡観察を実現可能にした、 画期的な観察手法です(ナノスーツ法: http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130416/)。
  昆虫比較発生学にもこの「ナノスーツ法」を応用した結果、胚の収縮と胚クチクラの剥離による アーティファクトが著しい後期胚の観察に、絶大な威力を発揮することが分かってきました。さらに、電子顕微鏡観察に用いた試料は、 その後、蛍光顕微鏡観察や組織学的試料として切片作成に用いることもできます。このようにナノスーツ法の高いポテンシャルが示され、 本法が今後の昆虫比較発生学の発展に寄与することを大いに期待します。

ナノスーツ法による胚の電子顕微鏡観察像(左)と従来法による観察像(右)
Fujita, M, A. Blanke, S. Nomura, R. Machida (2016) Simple artifact-free SEM observations of insect embryos: application of the nano-suit method to insect embryology. Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 50: 7-10.

カワゲラ目(昆虫綱)の比較発生学的研究-形態学的アプローチによる進化的変遷の理解に向けて-
日本科学協会笹川化学研究助成,2016,代表:武藤将道(生命環境科学研究科 M2)

昆虫類頭部内骨格の比較発生学的検討−昆虫類基部分岐の系統学的再構築−
科学研究費(基盤研究B), 2016〜2018, 代表:町田 龍一郎(教授)

昆虫類で初めての電位依存性プロトンチャンネルを発見
ユーリヒ総合研究機構Gustavo Chaves, Boris Mussetグループ, 真下雄太(非常勤研究員), 町田龍一郎(教授)他;The FEBS Journal(印刷中).
  細胞膜には様々な分子やイオンを輸送する膜輸送体が細胞膜を貫通して存在しています。そうしたものの1つである 電位依存性プロトンチャネルは、細胞膜の膜電位を感知して細胞内外のpHの制御を行うことで、様々な生理学的側面において重要な役割を 担っています。そのため、これまでに多くの真核生物で調べられてきましたが、ショウジョウバエやミツバチからは見つからず、 昆虫類は電位依存性プロトンチャネルをもたないのではないかとされてきました。しかし、今回1KITE project の成果を利用した トランスクリプトーム解析を行ったところ、多くの無翅昆虫類や多新翅類昆虫類などで電位依存性プロトンチャネルのオルソログと みられる配列が発見されました。さらに、原始的な昆虫類であるシミ目のメナシシミNicoletia phytophilaを材料に このタンパク質が実際に電位依存性プロトンチャネルとして機能しているのかを解析した結果、プロトン選択性、pHおよび電位依存性が 確認されました。また、イオンチャネルには特定のイオンを選択的に透過させるフィルタリング機能がありますが、1回目の膜貫通 セグメントの66番目のアスパラギン酸がプロトン選択性に重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。
Chaves, G., C. Derst, A. Franzen, Y. Mashimo, R. Machida, B. Musset (2016) Identification of an HV1 Voltage-Gated Proton Channel in Insects. The FEBS Journal (in press).
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なぜミツユビナミハダニのオスは同種のメスよりも異種のメスを選ぶのか?
佐藤幸恵(助教),Heike Staudacher(アムステルダム大学),Maurice W. Sabelis(アムステルダム大学); Experimental and Applied Acarology, 68 : 21-31.
  同種と結婚しないと子供はできないのに、動物の世界では同種よりも異種と好んで結婚しようとする行動が時々見られる。 この不適応な行動はなぜ進化しうるのだろうか?ということを、トマトの農業害虫であるミツユビナミハダニを対象に調べてみました。 本種は世界各地で侵入害虫として問題になっており、侵入地では個体群の遺伝的多様性は乏しいと期待されます。そのため、 雌をめぐる雄間闘争は激しく、異種雌へのアプローチはコストやリスクが高いものの、近親交配を避けるために、雄は外観やにおいの 異なる(けど自分に比較的似ている)近縁種の雌にそそられるのではないか?と仮説をたて、検証しました。 その結果、本仮説は採択されなかったけれど、異種への好みの強さは、個体群や系統間で異なるということを明らかにしました。
Sato Y, Staudacher H, Sabelis MW (2016) Why do males choose heterospecific females in the red spider mite?. Experimental and Applied Acarology, 68: 21-31.
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<2015年>
コムシ目と外顎類の頭部筋肉系と内骨格系の相同性を議論−昆虫類の基部分岐での頭部内骨格系の新たな進化像を提出−
Alexander Blanke(JSPS外国人特別研究員),町田 龍一郎(教授); Organisms Diversity and Evolution, DOI: 10.1007/s13127-015-0251-5.
  複雑である頭部の解剖学的理解は、系統進化の観点から、たいへん重要です。最近、「内顎類」の一目であるコムシ目と 外顎類の近縁性が強く示唆され、両群は単系統群、有尾類Cercophoraを構成するとの考えが確からしくなってきました。しかしながら、 この有尾類のグラウンドプランの議論は始まったばかりです。本研究は、コムシ目と外顎類の頭部筋肉系と内骨格系を詳細に比較、 その相同性を議論し、有尾類の頭部構造のグラウンドプランを提出しました。
  さらに、他の昆虫類基部分岐、すなわち、カマアシムシ目、トビムシ目、イシノミ目、シミ目の頭部内骨格系の発生学的知見も 議論に加え、昆虫類の頭部内骨格系の進化的変遷を議論し、頭部形態の新たな進化像を提出しました。
Blanke, A. and R. Machida (2015) The homology of cephalic muscles and endoskeletal elements between Diplura and Ectognatha (Insecta). Organisms Diversity and Evolution, DOI: 10.1007/s13127-015-0254-5.

植生がオサムシ科昆虫の種組成へ与える影響を評価
小粥隆弘(博士課程),田中健太(准教授); Ecological Research, 31 (2): 177-188.
  筑波大学菅平高原実験センター及びその周辺で、落とし穴トラップを用いた調査を、草原、アカマツ天然林・広葉樹天然林、 カラマツ人工林の4植生で実施し、オサムシ科昆虫を採集しました。
  オサムシ科昆虫の種組成は、草原と森林で大きく異なり、地域のオサムシ科昆虫の多様性を維持する上で、草原が大きな役割を 持っていることが分かりました。一方、森林植生間では、カラマツ人工林の種組成が、アカマツ天然林・広葉樹天然林と重複する傾向が ありました。従来の研究では、人工林化はオサムシ科の種組成を貧相にするとされてきましたが、実は、それは常緑針葉人工林の効果で、 本研究のように落葉針葉樹であるカラマツ人工林は天然林と異ならないという可能性を示すことができました。

なお、本論文はEcological Research誌の編集長イチオシに選ばれました。
Ogai, T., & Kenta, T. (2015) The effects of vegetation types and microhabitats on carabid beetle community composition in cool temperate Japan. Ecological Research, 31 (2): 177-188. 本文へのリンクはこちら

新種の昆虫を筑波大学菅平高原実験センター及び周辺より発見
伊藤昇(川西市),小粥隆弘(博士課程);Japanese Journal of Systematic Entomology, 21 (2): 271-275.
  2014年に、筑波大学菅平高原実験センター内や、峰の原高原の崩壊地を対象として、地中にトラップ(罠)を仕掛け、昆虫相の 調査を行いました。獲られたコウチュウ目オサムシ科の一種が、形態的に既知種とは異なったことから、新種ホソヒラタオオズナガゴミムシ (Pterostichus nagasawai N. Ito et Ogai)として記載発表しました。本種のような地中生種が開けた高原の環境で発見されたことは驚くべきことです。 また、同じく地中生種であるニッコウオオズナガゴミムシ(P. macrogenys)が、本種と同じ場所から採集されました。今まで オオズナガゴミムシ類は限られたエリアで棲み分けしていると考えられており、同所的に棲んでいるという本報告はこれまでの常識を 覆すものです。
  画像は下記論文より引用いたしました。画像の使用の許可をしてくださった日本昆虫分類学会に感謝申し上げます。

N, Ito & T, Ogai (2015) A New Species of Macrocephalic Carabid from Nagano Prefecture, Japan (Coleoptera: Carabidae: Pterostichini). Japanese Journal of Systematic Entomology, 21 (2): 271-275. 雑誌へのリンクはこちら

長野県上田市菅平高原におけるヤマトシロアリの新産報告
木悦郎(特任助教),小粥隆弘(博士課程);Sociobiology, 62, 460-461.
  ヤマトシロアリは,生態系の中での分解者として働きだけでなく,文化財や家屋などを加害するなど,人間と強い関係のある 昆虫です.ヤマトシロアリは,近年分布を拡大しており,北海道の北部にも侵入し始めています.そこで本研究では,本州最寒の地域の 一つである,長野県上田市菅平高原において,ヤマトシロアリの分布と越冬の有無を調べました.その結果,菅平高原において, ヤマトシロアリのコロニー(巣)と越冬を確認しました.しかし,越冬後のコロニーは小さくなっていました.また,天然林内では, コロニーを発見できませんでした.このことから,ヤマトシロアリは,菅平高原に侵入しているものの,まだ定着は できていないことが示唆されました.
Takagi, E. & Ogai, T. (2015) New distribution record of Reticulitermes speratus Kolbe (Isoptera: Rhinotermitidae) in the coldest highland in central Japan. Sociobiology, 62, 460-461. 本文へのリンクはこちら

昆虫の体節形成の初原状態を解明−イシノミ目の engrailed 遺伝子のクローニングと発現解析−
中垣裕貴(博士課程),佐久間将(町田研出身),町田龍一郎(教授);Development Genes and Evolution, 225: 313-318.
  昆虫類(狭義の昆虫類:外顎類・真正昆虫類とも呼ばれる)の最原始系統であるイシノミ目は、昆虫類を理解する上で たいへん重要です。昆虫類の「体制」を理解するには体節形成を検討することが特に重要で、最も初原的な昆虫であるイシノミは ぜひとも解析されねばなりませんでした。しかし、モデル生物でないイシノミ類の研究は今まで成功してきませんでした。 町田研究室では長年、系統学的理解で重要なイシノミ目を含めた多くの非モデル生物を材料に研究をしていて、たくさんのノウ・ハウが あります。それを駆使しての今回の成果です。
  イシノミ目の一種であるヒトツモンイシノミPedetontus unimaculatus Machida, 1980の体節形成を、 engrailed-family 遺伝子のクローニングを行い、in situ ハイブリダイゼーション解析を行ないました。その結果、 ヒトツモンイシノミでは間挿体節以後の全体節が連続的に形成されることが明らかとなり、他の昆虫類にみられる、 初期胚における前方の体節の同時的な形成、および、間挿体節の挿入的な形成は、ヒトツモンイシノミの体節形成では 起きないことが分かりました。やはりイシノミ目で、最も「短胚型」的な体節形成が存在していたのです。 また、ヒトツモンイシノミの触角より前の領域に、体節と連続相同的な engrailed-family 遺伝子の発現パターンが 観察されました。この発現は長くその存在について議論が繰り返されてきた「前触角体節」の存在を示すものです。驚くべき発見です。

  本論文は、Development, Genes and Evolution の5ハイライト論文 hifhlight article 5 に選ばれました。
Nakagaki, Y., M. Sakuma, R. Machida (2015) Expression of engrailed-family genes in the jumping bristletail and discussion on the primitive pattern of insect segmentation. Development Genes and Evolution, 225: 313-318. 本文へのリンクはこちら

ナガヒラタムシの 1 齢幼虫の形態を解明
Margarita I. Yavorskaya (モスクワ大学),小嶋一輝(修士課程),町田龍一郎(教授),R.G. Beutel(イエナ大学);Arthropod Systematics & Phylogeny, 73 (2): 241-260.
  これまで材料の入手が難しく、詳細な研究が行われていなかったナガヒラタムシ Tenomerga mucida について、1 齢幼虫の 外部・内部形態を明らかにしました。本種が属する始原亜目は鞘翅目 4 亜目の内で最も原始的であると考えられており、鞘翅目の 形態・系統を理解する上で重要なグループであると考えられています。
  本研究の結果ナガヒラタムシの 1 齢幼虫はいくつかの始原亜目の固有派生形質を示しました。また、いくつかの独特な祖先形質も示しました。
  系統解析の結果では始原亜目は他の3亜目の姉妹群に位置し、始原亜目の単系統性が強く支持されました。しかし、 始原亜目内の系統関係と形質の進化の理解については内部形態や幼虫形態の情報不足により不十分であり、今後の情報の追加と 研究の進展に期待されます。
Yavorskaya, M. I., K. Kojima, R. Machida, R. G. Beutel (2015) Morphology of the 1st instar larva of Tenomerga mucida (Chevrolat, 1829) (Coleoptera: Archostemata: Cupedidae). Arthropod Systematics & Phylogeny, 73 (2): 241-260. 本文へのリンクはこちら

昆虫類の口器の祖先型を解明 −口器の進化に関する新しい考えを提唱−
Alexander Blanke (JSPS外国人特別研究員),町田龍一郎(教授),ボン大学B. Misof グループ他;Proceedings of the Royal Society B (Proceedings B), 282, 2015 1033.
  昆虫の原始系統群であるトビムシ目とコムシ目の口器をシンクロトロンμCTにより詳細に検討しました。 その結果、昆虫の祖先型の口器は、「口器の構造的連関 (Structural Mouthpart Interaction 、以下 SMIと略)」によって 機能するタイプであったことが明らかとなりました。これは、昆虫の口器は、もともとはSMIのない単純な噛み口だったとする 従来の考え方を否定する結果です。すなわち、まず最初に、SMIによって機能する口器が生まれ、それからトンボやバッタなどに 見られるSMIを失った「噛み口」が現われ、その後、二次的に多様なタイプのSMI、セミ、ハチ、チョウなどの「吸収口」、 ハエなどの「舐め口」が出現したと考えられるのです。
  本研究成果は、これまでの昆虫類の口器の進化の理解を大幅に変えることになります。 他の「無翅昆虫類」や有翅昆虫類の重要なグループの口器が、シンクロトロンμCTを用いて詳細に機能形態学的に検討されることが 期待されます。これにより、さらに詳細な昆虫類の進化像が描かれることになるでしょう。
Blanke, A., P. T. Rühr, R. Mokso, P. Villanueva, F. Wilde, M. Stampanoni, K. Uesugi, R. Machida and B. Misof (2015) Structural mouthpart interactions evolved already earliest lineages of insects. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences (Proceedings B), 282, 2015 1033. 本文へのリンクはこちら

ミヤモトクロカワゲラのミトコンドリアDNAを解明
北京遺伝研究所(BGI)グループ、町田龍一郎(教授);Mitochondrial DNA doi:10.3109/19401736.2015.1063120.
  冬季に菅平でよくみられるミヤモトクロカワゲラのミトコンドリアゲノムを解明した論文です。カワゲラ類の ミトコンドリアゲノムの解析は遅れていて、今回の成果は、今後のカワゲラ類の分子系統学的検討において大いに 貢献するものと期待されます。
Zhou, C., M. Tan, S. Du, R. Zhang, R. Machida, X. Zhou (2015) The mitochondrial genome of the winter stonefly Apteroperla tikumana (Plecoptera, Capniidae) Mitochondrial DNA, doi:10.3109/19401736.2015.1063120. 本文へのリンクはこちら

中部山岳地域における藻類寄生性ツボカビ相の解明およびその分類学的研究
長野県科学振興会研究助成, 2015, 代表:瀬戸 健介(生命環境科学研究科D2)

好蟻性昆虫アリスアブ幼虫の形態学的・進化発生学的研究
長野県科学振興会研究助成, 2015, 代表:真下 雄太(研究員)

ゴキブリ目の比較発生学的研究−網翅類、多新翅類の系統進化の再構築を目指して−
科学研究費(特別研究員奨励費), 2015〜2017, 代表:藤田 麻里(日本学術振興会特別研究員DC2)

菅平高原より新種の昆虫を発見
林靖彦(川西市),小粥隆弘(博士課程),長澤亮(学類);Japanese Journal of Systematic Entomology, 21 (1) 165-167.
  菅平高原の斜面土砂移動地を対象として、地中にトラップ(罠)を仕掛け、昆虫相の調査を行いました。その結果、コウチュウ目 タマキノコムシ科の一種が形態的に既知種とは異なったことから、新種ニホンメナシチビシデムシ(Sciaphyes japonicus)として記載発表しました。 本種は複眼や後翅が完全に退化しており、これらは地中環境に適応した結果だと考えられます。
Y. Hayashi, T. Ogai, R. Nagasawa (2015) Discovery of a New Sciaphyes Species (Coleoptera: Leiodidae: Leptodilini) from Honshu, Japan. . Japanese Journal of Systematic Entomology, 21 (1), 165-167 本文へのリンクはこちら

植物の花蜜が介在する生物間ネットワークの形成プロセス
科学研究費(挑戦的萌芽)), 2015〜2017, 代表:平尾 章(助教)

温暖化に対する生物多様性の安定性効果
科学研究費(基盤研究(C)), 2015〜2017, 代表:鈴木 亮(助教)

シカ高密度生息地における森林の不可逆的変化と多様性再生プロセスに関する生態研究
科学研究費(基盤研究(C)), 2015〜2017, 分担:鈴木 亮(助教)

ムカシトンボ幼虫の頭部形態の解明、形態形質コーディング法の検討
Alexander Blanke(JSPS外国人特別研究員), 町田龍一郎(教授);Zoological Journal of the Linnean Society(印刷中).
  形態形質を用いた系統解析において、幼虫または成虫のみの形態を利用すると樹形にバイアスがかかる恐れがあります。 そのため異なる生活史段階(幼虫・成虫)の形質データを統合して解析する必要があります。そこで本論文ではムカシトンボ幼虫の頭部形態の 詳細を明らかにするとともに、幼虫・成虫形態の形質コーディング法が系統樹作成に与える影響について検討しました。
  幼虫を独立の末端群として扱う場合、幼虫・成虫形態を多値あるいは別形質として扱う場合など、いくつかの形質コーディング法に 基づき系統解析シミュレーションを行った結果、幼虫・成虫形態を多値として扱った場合に樹形に負の影響が出ること、 別の形質として扱った場合に最も強い支持が得られることが明らかとなりました。
Blanke A., S.Büsse, R.Machida (2015) Coding characters from different life stages for phylogenetic reconstruction: a case study on dragonfly adults and larvae, including a description of the larval head anatomy of Epiophlebia superstes (Odonata: Epiophlebiidae). Zoological Journal of the Linnean Society, in press 本文へのリンクはこちら

ミナミイシノミの精子微細構造を解明
シエナ大学 R. Dallai グループ、町田龍一郎(教授);Micron, 73: 47-53.
  イシノミ目は最も原始的な昆虫類のグループとして、昆虫類の起源、グラウンドプラン、高次系統を論じるうえで たいへん重要なグループです。その精子構造に関しては、イシノミ科では比較的研究がなされていますが、 もう1科のミナミイシノミ科に関しては簡単な研究が一つあるのみで、イシノミ類の精子構造を理解するうえでは問題でした。 このような背景から、マレーシア産のミナミイシノミ科のMachilontus 属の一種の精子構造を詳細に検討しました。
  その結果、本種もいままで知られているイシノミ目と共通する精子構造をもっており、イシノミ目の精子は、 1)鞭毛は「9+9+2」構造を示すが、2)外側の付属微小管は内側の微小管とのリンクは弱く、3)内側の微小管の外側に 相対する部位に4本と5本がグループを作って存在するという、特徴をもつことがわかりました。これを系統学的に議論すると、 1)内外の微小管のリンクの強化は双関節丘類(=シミ目+有翅昆虫類)の特徴であり、2)リンクが不十分な状態はイシノミ目と コムシ目に知られることから、3)去年発表された1KITEの系統仮説「昆虫類=欠尾類+有尾類(=コムシ目+(イシノミ目+双関節丘類))」は 精子構造の観点からもよく支持されることが示唆されました。
Fanciulli. P. P, D. Mercati, R. Machida, R. Dallai (2015) Spermiogenesis and sperm ultrastructure of Machilontus sp (Insecta: Archaeognatha) with phylogenetic consideration. Micron, 73: 47-53. 本文へのリンクはこちら

リター量とそれによる昆虫相の違いがブナの実生に及ぼす影響の解明
科学研究費(奨励研究), 2015, 代表:正木 大祐(技術職員)

地下生種を含めたオサムシ科ナガゴミムシ属の分子系統解析
日本生態学会中部地区会研究助成, 2015, 代表:小粥 隆弘(生命環境科学研究科 D4)

オサムシ科昆虫の地下進出に伴う爆発的種分化プロセスの解明
日本科学協会笹川科学研究助成, 2015, 代表:小粥 隆弘(生命環境科学研究科 D4)

発生学的アプローチからの形態学ルネサンス -昆虫類における胸部側板の起源の解明-
日本科学協会笹川科学研究助成, 2015, 代表:真下 雄太(研究員)

菅平高原より新属新種のツボカビを発見
瀬戸健介(博士課程)、出川洋介(助教) ;Mycologia (印刷中).
  菅平高原実験センター内で採集した土壌から分離されたツボカビの一菌株について、培養下での形態観察、 透過型電子顕微鏡による微細構造観察および分子系統解析に基づき、分類学的検討を行いました。
  その結果、本菌はロブロミセス目(ツボカビ門ツボカビ綱)に属し、目内の既知種と形態的に区別できる未記載種と判断されました。 遊走子の微細構造を観察した結果、本菌はキネトソーム内に高電子密度の棒状構造を有すなどの特徴から、目内の既知属いずれとも区別されました。 また、系統的にも目内の既知種いずれとも異なるクレードに属しました。 以上より、本菌に対し新たにCyclopsomyces属(上記の微細構造的特徴をギリシャ神話の巨人サイクロプスの一つ目に見立てて)を提唱し、Cyclopsomyces plurioperculatusとして記載発表しました。
Seto K, Degawa Y (2015) Cyclopsomyces plurioperculatus: a new genus and species of Lobulomycetales (Chytridiomycota, Chytridiomycetes) from Japan. Mycologia in press. 本文へのリンクはこちら

キゴキブリの精子微細構造を解明
シエナ大学 R. Dallai グループ、町田龍一郎(教授)、Apisit Thipaksorn ;Journal of Morphology, 276(4): 361-369.
  近年の系統学的研究から、ゴキブリ目の中の亜社会性ゴキブリ、キゴキブリ科がシロアリ類に最も近縁なグループとされています。
  本研究では、このキゴキブリ科の精子微細構造の詳細を初めて明らかにしました。 その結果、キゴキブリ科の精子は他のゴキブリ類や新翅類昆虫に典型的な特徴をとどめていることが明らかとなりました。 シロアリ類の精子は、他の昆虫類ではほとんど見られない特徴をいくつか示すことが知られていますが、 こうした特異的な特徴はキゴキブリ科とシロアリ類が分岐した後に獲得されたことが本研究から示唆されました。
Dallai, R., A. Thipaksorn, M. Gottardo, D. Mercati, R. Machida, R.G. Beutel (2015) The sperm structure of Cryptocercus punctulatus Scudder (Blattodea) and sperm evolution in Dictyoptera. Journal of Morphology, 276(4): 361-369. 本文へのリンクはこちら

トビムシ目の漿膜の発生学的ポテンシャルを解明
富塚茂和 (博士課程)、町田龍一郎 (教授) ;Arthropod Structure & Development, 44: 157-172.
  日本最大のトビムシである、デカトゲトビムシ Tomocerus cuspidatus の胚発生に関して研究し、 トビムシ目の胚膜の発生学的ポテンシャルについて再記載を行いました。
  六脚類の陸上における適応放散において、胚膜系の発達は重要な役割を果たしたとされています。 節足動物の胚膜系は祖先的には漿膜と呼ばれる卵黄を保護する膜だけから構成され、この漿膜は発生過程で退化せず、最終的に体壁の一部となります。 節足動物における胚膜系の祖先形質はカマアシムシ目で保存されています。 一方でコムシ目と外顎類の胚膜系は漿膜と、羊膜の二種類の胚膜から構成され、それらは共に胚発生中に退化します。 これまでのトビムシ目の発生学的研究からは、トビムシ目の胚膜系はカマアシムシ目と同様に漿膜だけから構成されるものの、 漿膜は発生過程で退化するとされており、ちょうどカマアシムシ目とコムシ目・外顎類の中間的な特徴をもつとされてきました。
  本論文ではトビムシ目の発生における胚膜をその形成から発生終期まで観察しました。 その結果、トビムシ目の胚膜系は先行研究と同様に漿膜だけから構成されるものの、漿膜は発生過程において退化せず、カマアシムシと同様にトビムシ目での六脚類の祖先的な状態が保持されていることを明らかにしました。 胚膜系の特徴から導かれる系統関係と顎部形成から導かれる系統関係を合わせることで、六脚類の高次系統に関して、六脚類 = 欠尾類 (= カマアシムシ目 + トビムシ目) + 有尾類 (= コムシ目 + 外顎類) の系統関係が支持されました。
Tomizuka S, R. Machida (2015) Embryonic development of a collembolan, Tomocerus cuspidatus Börner, 1909: With special reference to the development and developmental potential of serosa (Hexapoda: Collembola, Tomoceridae). Arthropod Structure & Development, 44: 157-172. 本文へのリンクはこちら

側所的分布関係をもつ社会性ハダニ2型間の不完全な交尾前・交尾後生殖隔離
佐藤幸恵(助教)、アムステルダム大学Johannes A. J. Breeuwer、アムステルダム大学Martijn Egas、アムステルダム大学Maurice W. Sabelis ;Experimental and Applied Acarology, 65: 277-291.
  分布が重なっている近縁種間では、交尾行動の違いや同種に対する好みといった、交尾前生殖隔離の発達がしばしば見られる。 それは、物理的なバリアが無く接触が多い状況下では、交尾前の生殖隔離が効率的に雑種形成やそれに伴うコストを軽減するためだと考えられている。
  ススキスゴモリハダニは、ススキに寄生し集団で共同営巣する社会性のハダニである。 本種のオスは殺し合いをし、ハーレムをつくるが、このオス同士の攻撃性の強さには地理的変異があり、攻撃性の強い型と弱い型に分けることができる。 これら2型は、標高の高い寒冷なところに攻撃性の弱い型が、低い温暖なところに攻撃性の強い型が分布するといった側所的分布関係にあり、中間的な標高では同じススキ野原に2型とも分布している。
  そこで本研究では、このような分布関係にありながらも、どのようなメカニズムの下、これら2型が維持されているのかを知るために、2型間の生殖隔離を交尾前生殖隔離を中心に調査した。
Sato Y, Breeuwer JAJ, Egas M, Sabelis MW (2015) Incomplete premating and postmating reproductive barriers between two parapatric populations of a social spider mite. Experimental and Applied Acarology 65: 277-291. 本文へのリンクはこちら


<2014年>
ツヤクロマルカスミカメの食草
木悦郎(特任助教); Journal of Asia-Pacific Entomology, 17, 499-503.
  菅平高原実験センターとその周辺の草原には、様々な植物が生育しています。またそれらの植物は、様々な昆虫の餌となっています。
  ツリガネニンジンは、センター内の草原に最も多く見られる植物の一種です。本研究では、ツリガネニンジンを餌とする昆虫を調べました。
  すると、北アフリカからユーラシア大陸に広く分布し、ホタルブクロ属を餌とするツヤクロマルカスミカメが、菅平高原ではツリガネニンジンを餌としていました。 一方、ヤマホタルブクロは餌としていませんでした。このことから、中部地域におけるツヤクロマルカスミカメの餌は、ツリガネニンジンだけだと明らかになりました。 もしかしたら、菅平高原のツヤクロマルカスミカメは、他の地域とは別の種類に分かれているかもしれません。
Etsuro Takagi (2014) Herbivory by Strongylocoris leucocephalus (Hemiptera: Miridae) on a novel host plant Adenophora triphylla var. japonica in Japan. Journal of Asia-Pacific Entomology, 17, 499-503. 本文へのリンクはこちら

繁殖干渉がハダニ2種間の競争関係に与える影響を評価
佐藤幸恵(助教)、Juan Manuel Alba Cano(アムステルダム大学)、Maurice W. Sabelis(アムステルダム大学); Heredity 113: 495-502.
  いくつかの動物種では異種との繁殖行為が容易に起こり、時には、同種個体よりも異種個体を好む行動が観察されている。多くの場合、異種からの繁殖行為により雌は正常な繁殖ができないといったコストを被るため(繁殖干渉)、この異種間の繁殖行為は、種間の空間的・時間的分布関係に影響をあたえうることが、多くの理論的・実証的研究により提唱・支持されている。しかし多くの実証的研究では、繁殖行動と個体群動態の関係からのみ繁殖干渉の重要性を説いており、他の要因が排除されていない。本研究では、トマトの害虫であるハダニ2種を対象に、ハダニでは最初の交尾で得られた精子が優先的に使われるといった特徴をいかして繁殖干渉の強度を変えることにより、また、植物防御機構が一部欠如したトマト変異体を用いて植物を介した間接的相互作用をコントロールすることにより、2種間の競争関係に与える繁殖干渉の影響を抽出して評価した。

表紙に選ばれた本研究の写真
Y Sato, J M Alba and M W Sabelis (2014) Testing for reproductive interference in the population dynamics of two congeneric species of herbivorous mites. Heredity, 113:495-502. 本文へのリンクはこちら

血縁者間の競争が対立行動の進化に与える影響
科学研究費(研究活動スタート支援), 2014, 代表:佐藤 幸恵(助教)

ゲノム情報で昆虫の高次系統関係と分岐年代を解明
1KITEコンソーシアム、町田龍一郎(教授)グループ、北海道大学吉澤和徳(准教授)、横須賀市自然・人文博物館内舩俊樹、愛媛大学福井眞生子(助教); Science 346 (6210): 763-767.
  昆虫は現在、約30の目(もく)とよばれる大きな分類単位から構成されています。国際研究プロジェクト「1000種昆虫トランスクリプトーム進化」コンソーシアムは、昆虫の全目から103種をサンプリングし、それらの約1500遺伝子の塩基配列情報を新たに決定しました。この膨大なデータに基づいて昆虫の高次系統関係の解析を行うと同時に、37の化石情報をあわせて利用することで、重要な進化イベントの年代推定を行いました。解析の結果、これまで提出された系統仮説よりもはるかに信頼性の高い、昆虫の高次系統樹が構築されました。その結果、分岐年代の推定も含め、昆虫の起源、有翅昆虫類の起源、内顎類の非単系統性、多新翅類の単系統性、準新翅類の非単系統性、完全変態類の起源などが明らかとなりました。

Misof, B., S. Liu, K. Meusemann, R. S. Peters, C. Mayer, A. Donath, P. B. Frandsen, J. Ware, R. G. Beutel, O. Niehuis, M. Petersen, 1KITE consortium (including 83 other authors), J. Wang, K. M. Kjer, X. Zhou (2014) Phylogenomics resolves timing and pattern of insect evolution. Science, 346(6210): 763-767 (Authors listed are major contributors). 本文へのリンクはこちら

ススキの病原菌2種の地域スケールと集団スケールの空間分布パターン
鈴木亮(助教)、出川洋介(助教)、東京大学鈴木智之、国立科学博物館細矢剛; Mycoscience (印刷中)
  2010年に新たに発見されたススキの病原菌Naemacyclus culmigenusとすでに知られているクロボ菌Sporisorium kusanoiが、それぞれ菅平地域でどのように蔓延しているかを調べました。菅平内の11地域で調べた結果、N. culmigenusS. kusanoiは、それぞれ1カ所と8カ所で出現しました。さらに、2種が唯一存在した菅平高原実験センター草原内の分布を調べた結果、6000調査区中2708区と987区で出現しました。すなわち、N. culmigenusは1地域に限定してその中で広く蔓延しているのに対し、S. kusanoiは多数の地域に低い感染率で発生しているという違いがみられました。

菅平高原実験センター内の2種の病菌の分布
Suzuki, R.O., Degawa,Y., Suzuki, S.N. & Hosoya, T. (2014) Local-and regional-scale spatial patterns of two fungal pathogens of Miscanthus sinensis in grassland communities. Mycoscience , in press. 本文へのリンクはこちら

トラップの間隔を変えると森林性ネズミのとれやすさが変わる
宮崎大学坂本信介グループ、東京大学鈴木智之、鈴木亮(助教)ら; Journal of Forest Research (印刷中)
  ネズミ捕獲トラップの間隔を10 mと25 mにした場合でのそれぞれの捕獲効率について検討しました。対象とするげっ歯類は、森林性のアカネズミとヒメネズミです。メスのテリトリー範囲が約25mといわれていることから、10 m間隔はテリトリーに1つ以上の罠を置き、25m間隔は1つ未満を置いたと仮定しました。捕獲効率を評価するために、ベイズ統計法を応用して個体数密度の推定値を計算し、それぞれの捕獲間隔で得られた個体数密度と推定値を比べました。結果、10 m間隔の方がより推定値に近い観察値を得ることができました。10 m間隔の捕獲は、調査面積も小さくすむため調査労力が低く、その点でも効率のよい方法といえます。ただし、年変動や場所による捕獲率の違いが大きく、より安定した捕獲を目指すなら、広い面積で数日間にわたり25 m間隔の捕獲を行うのがよいと考えられます。
Sakamoto, S.H., *Suzuki, S.N., Koshimoto, C, Okubo, Y., Eto, T. & *Suzuki, R.O. (2014) Trap distance affects the efficiency and robustness in monitoring the abundance and composition of forest-floor rodents. Journal of Forest Research, in press. *Equally contributing authors. 本文へのリンクはこちら

菅平の草原での温暖化実験:雪解け時期、温暖化、土壌撹乱が草原植生に与える影響
鈴木亮(助教); Plant Ecology (印刷中)
  温暖化とそれにともなう雪解けの早期化に対し、温帯草原がどのように反応するのかはあまり研究されていません。さらに、土壌撹乱がおきると温暖化や雪解けへの反応は過剰になるのか縮小するのでしょうか。
  菅平高原実験センター内の草原で、3年間の温暖化実験を実施しました。3つの実験処理区(オープントップチャンバー設置による温暖化区,早期雪除去区,対照区)を5カ所ずつ草原内に設置しました。さらに各処理区の半分の面積を掘り起こして土壌撹乱をしました。各処理区の撹乱有無の場所での種数とバイオマスを記録しました。
  3年を通じた平均気温は温暖化区が対照区と比べ1.37℃高く、雪解けは16?26日早くなりました。雪解け直後からの約2ヶ月間の種数や被度は、温暖化区の方が早く増加しました。しかし、早期雪除去区と対照区の間には、それらに差がありませんでした。また、植物が最も大きくなる9月のバイオマスは、処理区間で差はみられませんでした。土壌撹乱は、処理区間の差を縮めました。
  これらの結果から、早期雪除去は草原植生に影響を与えず、温暖化装置は植生発達を早めることがわかりました。

ススキ草原内の温暖化実験装置
Suzuki, R.O. (2014) Combined effects of warming, snowmelt timing, and soil disturbance on vegetative development in a grassland community. Plant Ecology, in press. 本文へのリンクはこちら

ネジレバネの胚発生を解明
イエナ大学 R.G. Beutelグループ、町田龍一郎(教授);Arthropod Structure & Development, 44:42-68.
  ネジレバネ類は、既知種のすべてが絶対寄生性をとるという、変わった分類群です。オスは前翅が擬平均棍とよばれる構造に退化しており、扇状の後翅のみで飛翔します。また、短命で、羽化後に寄主を離れてから数時間しか生きられません。一方メスは、芋虫のような形をしており、頭胸部を寄主の体から突き出し、その一生を寄主の体内で過ごします。生殖様式もかなり独特で、メスの体内では卵巣が崩壊して血液中を卵が浮遊しています。交尾の後、この卵はそのままメスの体内で発生を進め、やがてメスは体内で孵化した幼虫を産みます。
  今回の論文はこのネジレバネ類について、胚の外部形態に焦点を当てて記載報告したドイツとの共同研究論文です。本目の胚の外部形態に焦点をあてて記載し、いくつかの発生学的な固有形質を明らかにしました。直径50ミクロンの卵と胚を詳細に観察した力作です。

表紙に選ばれた本研究の写真
Fraulob, M., R. Beutel, R. Machida, H. Pohl (2014) The embryonic development of Stylops ovinae (Strepsiptera, Stylopidae) with emphasis on external morphology. Arthropod Structure & Development, 44:42-68. 本文へのリンクはこちら

イシノミ目顎部の機能形態学的研究:イシノミも実は"双関節丘類"
Alex Blanke(JSPS外国人特別研究員)、町田龍一郎(教授)ほか;Systematic Entomology, 40(2):357-364.
  陸上に進出した昆虫類の初期進化において、顎の発達は食性を拡大する上でとても重要な役割を果たしたと考えられます。真正昆虫類は基本的に、ものを咀嚼するのに適した顎が外部に露出した外顎口と呼ばれる顎をそなえています。そのため、外顎類とも呼ばれます。この外顎類は、顎の関節数の違いから単関節丘類(=イシノミ類)と双関節丘類(=シミ類+有翅昆虫類)に分けられてきました。この顎の特徴というのは、昆虫の初期系統においても重要なものでした。最も原始的な翅をもたない昆虫であるイシノミ類は、"単" 関節丘類とも呼ばれ、その大顎は頭蓋と1点のみで関節を形成していると理解されてきました。一方で、シミ類+有翅昆虫類は "双" 関節丘類としてまとめられ、大顎は頭蓋と2か所で関節を形成するとされていました。
  しかし今回、イシノミ目の全2科の頭部形態を、機能形態学の視点も加えて詳細に解析したところ、大顎の前方部にこれまで知られていなかった新たな「関節」構造を発見しました。この関節状の構造は、シミや有翅昆虫類の前関節丘に相当する位置にあることから、真の"双関節丘"状態に至る前段階であると解釈できます。
  つまり、イシノミも実は広い意味での "双関節丘類" であり、"双関節丘類" は "外顎類" の「シノニム(同物異名)」といえます。これはこれまでの昆虫系統学の常識を書き換える驚くべき結果です。

Blanke, A., R. Machida, N.U. Szucsich, F. Wilde, B. Misof (2014) Mandibles with two joints evolved much earlier in the history of insects: Dicondyly is a synapomorphy of bristletails, silverfish and winged insects. Systematic Entomology, 40(2):357-364. 本文へのリンクはこちら

ブラジル産ジュズヒゲムシの生殖系を解明
シエナ大学R. Dallaiグループ、真下雄太(技術補佐員)、町田龍一郎(教授)ほか;Zoomorphology(印刷中)
  ブラジル産ジュズヒゲムシ Zorotypus shannoni の生殖系について記載報告したイタリア、ドイツとの共同研究論文です。これまでの生殖系に関する研究から、ジュズヒゲムシには2タイプの生殖系が報告されてきました。1つは、Z. caudelli のような交尾器の一部に長いコイル状の構造とそれに対応した非常に長い貯精嚢管をもつタイプ、もう1つはZ. impolitusZ. hubbardiのような巨大な精包とそれに対応した大きな貯精嚢をもつタイプです。
  しかし、今回報告したZ. shannoni は、この両タイプに似た生殖系および精子微細構造の特徴を兼ね備えた中間的な形質状態を示すことが明らかとなりました。これは、今後ジュズヒゲムシ目内の系統関係や生殖系の系統進化を議論する上で重要なデータとなることが期待されます。

Dallai, R., M. Gottardo, D. Mercati, J.A. Rafael, R. Machida, Y. Mashimo, Y. Matsumura and R.G. Beutel (2014) The intermediate sperm type and genitalia of Zorotypus shannoni Gurney - evidence supporting infraordinal lineages in Zoraptera (Insecta). Zoomorphology, in press. 本文へのリンクはこちら

中部山岳地域における地中性動物相の解明およびオオズナガゴミムシ亜属の進化系統学的研究
長野県科学振興会研究助成, 2014, 代表:小粥 隆弘(生命環境科学研究科 D3)

皇居吹上御苑のケカビ類
出川洋介(助教)、陶山 舞(修士課程)、瀬戸健介(博士課程)、中島淳志(博士課程)、森下奈津子(修士課程)、国立科学博物館細矢 剛、国立科学博物館保坂健太郎 ; Mem. Natl. Mus. Nat. Sci., Tokyo, (49)147-169.
  2012〜2013年の皇居、吹上御苑の菌類相調査に参加し、ケカビ目をはじめとした接合菌類に関する調査結果を報告しました。

Y.Degawa, M.Suyama, K.Seto, A.Nakajima, N.Morishita, T.Hosoya, K.Hosaka (2014) Mucoralean Fungi Collected at the Imperial Palace, Tokyo . Mem. Natl. Mus. Nat. Sci., Tokyo, (49)147-169. 本文へのリンクはこちら

オオゲジの糞に生息するクサレケカビ属の新種Mortierella thereuopodae
出川洋介(助教)、大沢和広(学類)、陶山舞(修士課程)、森下奈津子(修士課程) ; Mycoscience 55:308-313.
  唇脚綱ゲジ目オオゲジの糞を培養した際に分離されたクサレケカビ属Mortierellaの菌株について培養検討、形態観察、分子系統を実施して検討した結果、未記載種と判断され、皇居吹上苑産の菌株をエピタイプとして Mortierella thereuopodaeとして記載しました。本種は、東京都のほか、神奈川県、栃木県、茨城県、沖縄県から得られたオオゲジの糞からも安定して出現が認められ、オオゲジと何等かの深いかかわりを持つと考えられ、現 在、その生態的側面について詳細を追求中です。

Y.Degawa, K.Ohsawa, M.Suyama, N.Morishita (2014) Mortierella thereuopodae, a new species with verticillate large sporangiophores,inhabiting fecal pellets of Scutigeromorpha. Mycoscience 55:308-313. 本文へのリンクはこちら

ルリゴキブリの生殖行動と後胚発生を解明
藤田麻里(博士課程)、町田龍一郎(教授) ; Arthropod Systematics & Phylogeny, 72: 193-211.
  日本の南西諸島にのみ産するルリゴキブリEucorydia yasumatsuiの生殖行動と後胚発生過程を初めて明らかにしました。
  本種の配偶行動では、雌に出会った雄が、触角で雌の体を叩きながら雌の後を追うといった、雄の積極性が目立つ前交尾行動の後、最終的に雌雄で尾端同士を くっつけた"tail-to-tail"の姿勢で交尾を行います。交尾後、雌は産卵時に卵鞘(卵を包むカプセル状の構造物)を産み出し、 尾端に卵鞘を把握した状態で2、3日持ち運び地上に産み落とします。本論文では、本種の生殖行動とこれまでのゴキブリ目の生殖行動に関する 先行研究を基に、生殖行動という観点から目内の系統学的考察を発展させています。
  また、本種の累代飼育系から、幼虫を個別飼育し、各個体の脱皮回数を記録することで、幼虫期の全齢数の計測を行いました。 およそ2年に亘る観察の結果、幼虫期の全齢数は、雄では8または9齢、雌では9または10齢であることが明らかとなりました。ムカシゴキブリ科の 後胚発生に関する知見としては本報告が初めてとなります。その他、後胚発生過程における、 各齢の体長・前胸背板・中胸背板・触角の変化や腹部構造の形態変化も詳細にドキュメントしています。

Fujita, M., R. Machida (2014) Reproductive biology and postembryonic development of a polyphagid cockroach Eucorydia yasumatsui Asahina (Blattodea: Polyphagidae). Arthropod Systematics & Phylogeny, 72:193-211. 本文へのリンクはこちら

ナニワズの遺伝子マーカーを次世代シーケンサーで開発
平尾章(助教)グループ ; Applications in Plant Sciences, 2(5), 1400001.
  夏緑矮性低木のナニワズは、雌性両全性異株(両性株と雌株が存在)とい う性表現を示します。この性表現の進化プロセスや個体群動態を明らかにする ために、10個の遺伝子マーカー(マイクロサテライトマーカー)を開発しまし た。本センターに導入された次世代シーケンサーIon PGMを活用することで低コ スト・短期間での開発が可能となり、今後の利用が期待されます。
Yoshiaki Kameyama and Akira S. Hirao (2014) Development and evaluation of microsatellite markers for gynodioecious shrub, Daphne jezoensis (Thymelaeaceae). Applications in Plant Sciences, 2(5), 1400001. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目の後胚発生を解明
真下雄太(博士特別研究員)、町田龍一郎(教授) ; Arthropod Systematics & Phylogeny, 72: 55-71.
  ジュズヒゲムシの齢数に関しては、形態計測を使って推定した先行研究が 2 例ありますが、その微小な体サイズゆえに齢数間の差が不明瞭で、齢数が 4 か 5 で意見が分かれていました。 そこで本論文では、個別飼育した個体を地道に毎日観察して脱皮の回数を数えることで、齢数が 5 であることを明らかにするとともに、これまでほとんど触れられてこなかった幼虫各齢の外部形態の特徴を記載しました。 また、集団飼育と個別飼育を組み合わせて各齢の期間を明らかにすると共に、有翅型と無翅型の形態的な分化がいつ生じるのかなどについても報告しています。
Mashimo, Y., R.G. Beutel, R. Dallai, C.-Y. Lee and R. Machida (2014) Postembryonic development of the ground louse Zorotypus caudelli Karny (Insecta: Zoraptera: Zorotypidae). Arthropod Systematics & Phylogeny, 72: 55-71. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目における交尾器の進化を解明
シエナ大学R. Dallaiグループ、真下雄太(博士特別研究員)、町田龍一郎(教授) ほか ; Arthropod Structure & Development, (印刷中).

ジュズヒゲムシ目における交尾器の機能形態を解明
イェナ大学松村洋子、真下雄太(博士特別研究員)、町田龍一郎(教授) ほか ; Biological Journal of the Linnean Society, 112:40-54.
  マレーシア産 Zorotypus magnicaudelli, エクアドル産 Z. huxleyi, ブラジル産 Z. weidneri、そしてSilvestri 博士がジュズヒゲムシ目の記載に用いた Z. guineensisの交尾器形態を明らかにしました。 これまでの知見と比較検討を行い、ジュズヒゲムシで散見されるコイル状の構造を伴う交尾器がどのように進化してきたのかについて議論しています。 また、この特徴的なコイル状の交尾器が実際にどのように使われているのかについて、Zorotypus caudelliを用いた形態観察によって明らかにしました。
Dallai, R., M. Gottardo, D. Mercati, R. Machida, Y. Mashimo, Y. Matsumura, J.A. Rafael and R.G. Beutel (2014) Comparative morphology of spermatozoa and reproductive systems of zorapteran species from different world regions (Insecta, Zoraptera). Arthropod Structure & Development, (in press). 本文へのリンクはこちら
Matsumura, Y., K. Yoshizawa, R. Machida, Y. Mashimo, R. Dallai, M. Gottardo, T. Kleinteich, J. Michels, S.N. Gorb and R.G. Beutel (2014) Two intromittent organs in Zorotypus caudelli (Insecta, Zoraptera): A paradox coexistence of an extremely long tube and a large spermatophore. Biological Journal of the Linnean Society, 112:40-54. 本文へのリンクはこちら

フユシャクの翅退縮メカニズムを解明
首都大学東京 新津修平、富塚茂和(博士課程)、町田龍一郎(教授); PLoS ONE, 9(2), e89435.
  冬期に成虫期をむかえるフユシャクガ類では、寒さの適応の結果、メス成虫において飛翔能力を無くし、性的二型による翅の退行化現象が見られる。
  今回我々は、フユシャクガ類の一種であるフチグロトゲエダシャクにおけるメス特異的な翅退縮は、エクジステロイドが引き金となって予定細胞死が生じる現象であることを解明した。 また、メスにおける組織形態の変化については、これまで光学顕微鏡レベルでは解析できなかった細胞の微細構造の観察を透過型電子顕微鏡 LEM2000 を用いて行った。光顕並みの広視野観察が可能である LEM2000 を用いた観察の結果、翅退縮に見られる予定細胞死には、アポトーシスとオートファジー性細胞死の両方が生じることにより退縮する現象であることが明らかとなった。
  今回は、町田龍一郎教授をはじめ、大学院博士課程の富塚茂和氏らの協力による LEM2000 を用いた解析により初めて明らかにされた研究である。
Niitsu, S., K. Toga, S. Tomizuka, K. Maekawa, R. Machida and T. Kamito (2014) Ecdysteroid-induced programmed cell death is essential for sex-specific wing degeneration for the wingless-female winter moth. PLoS One, 9(2): e89435. 本文へのリンクはこちら

モチノキタネオナガコバチの遺伝子マーカーを開発
高木悦郎(特任助教)グループ;Applied Entomology and Zoology, 49: 197-200.
  近年、多くの昆虫で遺伝子マーカーが開発され、その個体群動態の研究が行われています。 本研究では、モチノキの種子を加害し、さらに果実色操作による間接効果で種子散布を阻害するモチノキタネオナガコバチの個体群動態を明らかにするために、14個の遺伝子マーカー(マイクロサテライトマーカー)を開発しました。 今後、この遺伝子マーカーを用いた研究の発展が見込まれます。
Etsuro Takagi, Norihisa Matsushita, Katsumi Togashi, and Taizo Hogetsu (2014) Isolation and characterization of 14 microsatellite markers in Macrodasyceras hirsutum (Hymenoptera: Torymidae). Applied Entomology and Zoology, 49: 197-200. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目誕生100周年レビュー
真下雄太(博士課程)、町田龍一郎(教授)、イエナ大学 R.G. Beutelグループ、シエナ大学R. Dallaiグループほか; Insect Systematics & Evolution (印刷中)
  ジュズヒゲムシは1913年にイタリアの著名な昆虫学者 Fillipo Silvestri 博士により目として記載された、熱帯を中心に分布する微小昆虫です。 その生物学的な知見は極めて少なく、系統学的にも非常に謎に包まれており、多くの昆虫系統学者を悩ませてきました。 本論文は、北海道大、ドイツ・イェナ大、イタリア・シエナ大の研究者と共同でジュズヒゲムシ目のこれまでの研究史を概括した総説です。ジュズヒゲムシの生態、形態、系統などについて、発見から近年の新知見までを網羅的にまとめて紹介しています。
Y. Mashimo, Y. Matsumura, R. Machida, R. Dallai, M. Gottardo, K. Yoshizawa, F. Friedrich B. Wipfler, R.G. Beutel (2014) 100 years Zoraptera - a phantom in insect evolution and the history of its investigation. Insect Systematics & Evolution,(in press). 本文へのリンクはこちら

ガロアムシ目誕生100周年、その研究史、研究成果を概括
イエナ大学 R.G. Beutelグループ, 町田龍一郎(教授ら);Journal of Insect Biodiversity, 2 (2):1-25.
  ガロアムシ目は1914年にイタリアの著名な昆虫学者Fillipo Silvestri により発見されました。 ガロアムシは冷涼な山地のガレ場などに生息する翅を欠く昆虫で、学名のGrylloblattodea(=gryllo- コオロギみたいで, blattodea ゴキブリっぽい)が示すようにいろいろな昆虫の特徴を併せ持つ、大変興味深いグループです。 ガロアムシ目は分布も特徴的で、中国、韓国、日本、シベリア、北アメリカの環太平洋地域に生息し、日本はその代表的産地です。今年は記念すべきガロアムシ目誕生100周年です。 町田龍一郎教授および教授の研究室出身の内舩俊樹博士(横須賀自然・人文博物館)ら、ドイツ、アメリカ、韓国、中国の研究者が、ガロアムシ研究の100年を総括し、今までわかったことを概括する総説を出しました。
Wipfler, B., M. Bai, S. Schoville, R. Dallai, T. Uchifune, R. Machida, Y. Cui and R.G. Beutel (2014) Ice crawlers (Grylloblattodea) - The history of the investigation of a highly unusual group of Insects. Journal of Insect Biodiversity, 2 (2):1-25. 本文へのリンクはこちら

小笠原の固有変種植物オオハマボッスの繁殖量は密度依存で決まる
鈴木亮(助教)グループ;Plant Species Biology, 29 217-224.
 植物が生涯に作る繁殖量(花数、果実数、種子数)は、次世代の子供を残せる数(これを生物学用語で”適応度”と呼びます)に大きく影響を与えます。 そのため、繁殖量がどんな要因で決まっているかを知ることは、その植物の生態や存続を理解する上でとても重要です。特に個体数が少なくて絶滅が危惧 される植物などでは、繁殖量の決定要因を把握することで将来の保全対策にも役立てられる可能性があります。
 本研究は、小笠原固有変種(小笠原諸島だけにしかいない植物種)の2年草オオハマボッスを対象に、その繁殖量がどんな要因で決定しているかを野外調査か ら明らかにしました。同種個体間の競争による密度効果と定着した砂礫環境(礫の大きさ)の2つの要因について検証した結果、オオハマボッスの繁殖は 密度依存的に決定することがわかりました。著者らの先行研究と統合すると、オオハマボッスの一生は、種子の発芽と実生定着は礫環境に影響を受け、 その後の成長と生存は初期(春から夏)は密度依存、後期(秋から冬)は礫依存で決まり、翌年の春の繁殖は再び密度依存であることがわかりました。
Suzuki, R.O. & Kachi, N. (2014) Effects of local densities and abiotic microenvironments on reproductive outputs of a biennial, Lysimachia mauritiana var. rubida. Plant Species Biology, 29 217-224. 本文へのリンクはこちら


<2013年>
線虫捕食性のヘリコケファルム科(トリモチカビ目)の一新属、ベルコケファルム
出川洋介(助教); Mycoscience 55:144-148.
  トリモチカビ目Zoopagales、ヘリコケファルム科Helicocephalidaceaeは、線虫やワムシを捕食する菌群で、分類や生態の解明が遅れています。コウモリの糞を培養した際に出現した菌を検討した結果、付着器と吸器を形成し て線虫を捕食することからヘリコケファルム科の未記載種と同定されました。しかし、大型で表面にうろこ状の刺を持つ暗色の胞子を形成すること、胞子柄の分枝の様式などは、同科の既知種いずれにも該当せず、同菌に対し て新たにVerrucocephalum属を提唱し、V. latericorvinisporumとして、記載発表しました。
Degawa,Y. (2013) Verrucocephalum, a new nematophagous genus in the Helicocephalidaceae (Zoopagales). Mycoscience 55:144-148. 本文へのリンクはこちら

変形菌子実体の内部に認められたシスト状菌体の微細構造
AIST 矢島由香、NBRC 稲葉重樹、出川洋介(助教)、AIST 星野保 ; Karstenia 53:55-65.
  好雪生粘菌ルリホコリ属Lamprodermaの未熟な子実体標本中よりシスト状の菌体を検出し、微細構造の観察、分子系統解析を実施した結果、近年発見された菌類の最ベーサルクレードであるクリプト菌門の仲間だということが 判明しました。真正粘菌に寄生するクリプト菌の存在を示唆する重要な発見です。
Yuka Yajima, Shigeki Inaba, Yousuke Degawa, Tamotsu Hoshino, Noriko Kondo (2013) Ultrastructure of cyst-like fungal bodies in myxomycete fruiting bodies. Karstenia 53:55-65.

実験センター内の草原で日本新産のススキ病原菌Naemacyclus culmigenusを発見
国立科学博物館細矢剛グループ、出川洋介(助教)、鈴木亮(助教)他 ; Mycoscience 54: 433-437.
  2010年の夏に、センター内草原のススキに特徴的な病気が発見されました。 その病状は葉の中央部分がオレンジ色に枯れるもので、この病気に感染した個体は、多数のシュートが同様の症状を示し成長が著しく低下していました。
  胞子等の形態観察や分子系統解析の結果、本病原菌は盤菌類の1種Naemacyclus culmigenus (Helotiales, Leotiomycetes, Ascomycota)であると同定されました。 本種はこれまで海外でイネ科のウシクサ属やキビ属に感染することは知られていましたが、ススキへの感染は報告例がありませんでした。 今回ススキへの感染が初めて確認され、日本新産で新宿主の菌類であることがわかりました。
  どのように日本に来たのか、なぜススキに感染したのかなど、まだ謎が多く残されています。
Hosoya, T., Hosaka, K., Saito, Y., Degawa,Y., Suzuki, R. (2013) Naemacyclus culmigenus, a newly reported potential pathogen to Miscanthus sinensis, new to Japan. Mycoscience 54: 433-437. 本文へのリンクはこちら

マレーシア熱帯林の一斉開花現象の広域スケールパターン
首都大沼田真也グループ、鈴木亮(助教)他;PLoS ONE 8(11): e79095.
  東南アジアの熱帯雨林では、様々な樹木種が数年に1度の頻度で同時に開花し種子を大量に生産するという「一斉開花」現象が知られています。 この現象のメカニズムについては、さまざまな仮説があげられているもののまだ決定打と言えるものがありません。 本研究では、半島マレーシア全体で2001年、2002年、2005年に見られた一斉開花現象が、どのような地理的パターンをしているか、気候条件とはどのような関係にあるかを解析しました。 解析の結果、3度の一斉開花現象は、どれも地理的なパターンが異なっていました。また、乾燥期が長いときに起こっていることが共通していました。 ただし、長い乾燥期のある年(2004年など)でも一斉開花が起こらなかった場合もあり、長い乾燥期は一斉開花の必要条件ではあっても十分条件ではありませんでした。 低気温も一斉開花のシグナルと予測されていましたが、2002年と2005年は低気温でしたが2001年は低気温を経験せず一斉開花が起こりました。
  このように、本研究によっても一斉開花現象が単純なメカニズムによって説明できる現象ではないことがわかりました。
Numata, S., Yasuda, M., Suzuki, R.O., Hosaka, T., Nur Supardi, M.N., Fletcher, C.D., & Hashim, M. (2013) Geographical pattern and environmental correlates of regional-scale general flowering in Peninsular Malaysia. PLoS ONE 8(11): e79095. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目の交尾器進化を解明
真下雄太(博士課程)、町田龍一郎(教授)、シエナ大学R. Dallaiグループ; Arthropod Structure & Development, 43: 135-151.
  マレー半島に分布するジュズヒゲムシの一種 Zorotypus impolitus の生殖系について明らかにしました。本種は、ジュズヒゲムシ目では初報告となる精包による体外精子輸送を行う変わった種です。 オスは、メスへのアプローチが成功すると、メスの体の下に潜り込んでその尾端に精包をつけて渡します。メスは、おそらく精子が体内に入った後に、尾端の精包を食べて補給します。この一連のやり取りを何度も繰り返すという配偶行動を行います。 本種のもう一つの特色は、成虫の体長をも越える3 mmの巨大な精子で、これは六脚類の中でも最大のものです。この精子を受け取るために、メスの受精嚢も非常に大きくなるという共進化を果たしています。   外見上の変化が種間で非常に小さいジュズヒゲムシ類において、生殖系の進化や種分化に性淘汰が非常に大きな役割を果たしていることが本研究から示唆されました。
R. Dallai, M. Gottardo, D. Mercati, R. Machida, Y. Mashimo, Y. Matsumura, R.G. Beutel (2013) Giant spermatozoa and a huge spermatheca: a case of coevolution of male and female reproductive organs in the ground louse Zorotypus impolitus (Insecta, Zoraptera). Arthropod Structure & Development, 43: 135-151. 本文へのリンクはこちら

モチノキタネオナガコバチは産卵場所に既に産み付けられている卵の数を識別する
高木悦郎(特任助教ら); Canadian Entomologist, 145: 639-646
  昆虫の雌成虫は,我が子の成長・発育に適した場所を選んで,そこに産卵するという仮説があります(Preference-performance hypothesis).この仮説によると,雌成虫は,既に産卵されている場所を避けたり,既に産み付けられている卵の少ない場所を選んで産卵したりすると予想されています.
  モチノキという植物の種子を加害するモチノキタネオナガコバチというハチは,モチノキの種子のうち,受精した種子のみに産卵します.1つの受精種子では,1頭の幼虫しか成長・発育することができません.そのため雌成虫は,既に産卵されている受精種子を避けたり,既に産み付けられている卵の少ない受精種子を選んで産卵したりすると予想されます.
  本研究では,モチノキの受精種子内のモチノキタネオナガコバチの卵数を数えることで,モチノキタネオナガコバチの卵が,受精種子間では一様分布(まんべんなく分布)を,果実間ではランダム分布(でたらめに分布)を示すことを明らかにしました.これらのことから,モチノキタネオナガコバチは,1)受精種子内に既に産み付けられている卵の数を識別して,少ない種子を選んで産卵している一方,2)果実に既に産み付けられている卵の数を識別していないことが明らかになりました.
Etsuro Takagi and Katsumi Togashi (2013) Distribution patterns of Macrodasyceras hirsutum (Hymenoptera: Torymidae) eggs among Ilex integra (Aquifoliaceae) seeds and berries. Canadian Entomologist, 145: 639-646. 本文へのリンクはこちら

iBooks 対応電子ブック『コムシのハナシ』を出版
関谷薫・福士碧沙
 iBooks 対応電子ブック『コムシのハナシ』は、これまでの文章を読むだけの「本」とは異なり、読者自身が 3D 像を回したり、画面のあちこちをタップ(クリック)することで読み進める、動く仕掛けを盛り込んだ新しい形の電子ブックです。コムシという身近な、でも普段あまり見ることのない虫について、小中学生にも分かり易く、楽しく紹介しています。 また、本書は『うご図アウトリーチプロジェクト』の一環として作成されており、研究者に対して新しいアウトリーチの形を提案しています。 *入手にあたっては、リンク先HPより「『コムシのハナシ』をダウンロード!」をクリックし、移動先ページでもう一度「ダウンロード」をクリックしてください。 *本書を読むためにはAppleのアプリ iBooks が必要です。
関谷薫・福士碧沙
ダウンロードはこちらから

無翅昆虫類の分子系統解析
JT生命誌館 蘇智慧研究グループ、町田龍一郎(教授)グループ; BMC Evolutionary Biology, 13, 236.
 これまで六脚類の基部分岐に関しては、多くの分子系統が提出されてきました。特に、内顎類に関しては最近多くの議論が闘わされており、ほとんどの分子系統解析からは内顎類内の2目であるカマアシムシ目とコムシ目をまとめた無眼類が支持され、 カマアシムシ目とトビムシ目からなる欠尾類は棄却される傾向にありました。しかし一方で、カマアシムシ目やコムシ目の進化速度が速いことが指摘されるなど、信頼度が十分ある議論とはなり得ずにいました。 このような背景から、私たちは慎重に遺伝子(重複した、または進化速度が極端にばらつく遺伝子は避ける)、外群(遠すぎないこと)を選定し、解析を行ないました。 その結果、1)内顎類、無眼類は支持されない、2)外顎類の姉妹群はコムシ目あるいは「トビムシ目+コムシ目」、3)カマアシムシ目は「トビムシ目+コムシ目+外顎類」の姉妹群、との結論が得られました。 これは従来の分子系統と一線を画すものです。
 今回の分子系統は(外顎類の姉妹群をコムシ目と理解すれば)、私たちが以前に比較発生の観点から導いた、「内顎類」と「無眼類」を棄却したテンタティブな結論と一致します(Machida, 2006: Arthropod Systematics and Phylogeny Vol. 64)。 その後の、トビムシ目の発生の詳細な追試により支持された欠尾類については、本解析では支持されていません。 今後の分子系統学的解析の進展によって六脚類の基部分岐の議論がどのように展開されるのか、期待が高まります。
Sasaki, G., K. Ishiwata, R. Machida, T. Miyata, Z.-H. Su (2013) Molecular phylogenetic analyses support the monophyly of Hexapoda and suggest the paraphyly of Entognatha. BMC Evolutionary Biology 13: 236. 本文へのリンクはこちらOpen Accessです。

ジュズヒゲムシ目の胚発生を解明
真下雄太(博士課程)、町田龍一郎(教授); Journal of Morphology, 275: 295-312.
 ジュズヒゲムシ目の胚発生を初めて明らかにした論文です。Zorotypus caudelli の胚発生の概略について、外部形態を中心に記載しています。ジュズヒゲムシ目の胚発生は、1) 一対の高細胞密度領域の融合による胚形成、2) 卵表層での胚伸長、3) 平行移動による卵黄内への沈み込み、4) 額から頭楯にかけて形成される非常に長い卵歯 という4つによって特徴づけられます。 系統学的な目玉として、比較発生学的検討により、多新翅類で広く知られている 1)、2) の特徴は、新翅類の外群となる旧翅類と準新翅類でみられる発生様式と大きく異なることから、多新翅類の固有派生形質であることを初めて示唆しました。また、4) の卵歯の特徴と 2 年前に報告した卵構造との機能の進化的変遷について議論を展開し、絶翅目+Eukinolabia (=シロアリモドキ目+ナナフシ目)という新たな系統仮説を提示しました。
Y. Mashimo, R.G. Beutel, R. Dallai, C.-Y. Lee, R. Machida. Embryonic Development of Zoraptera with special reference to external morphology, and its phylogenetic Implications (Insecta). Journal of Morphology, 275: 295-312. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシの 3 新種を記載
真下雄太(博士課程)、町田龍一郎(教授);Zootaxa, 3717: 498-514.
 マレー半島に生息するジュズヒゲムシ 3 新種について記載しました。この地域からのジュズヒゲムシの報告は初です。比較的狭い範囲内に、既知種である Zorotypus caudelli の他に 2 種分布している事が明らかになり、ジュズヒゲムシ目の潜在的な多様性を示唆しています。
Y. Mashimo, K. Yoshizawa, M.S. Engel, I.A. Ghani, R. Dallai, R.G. Beutel, R. Machida (2013) Zorotypus in Peninsular Malaysia (Zoraptera: Zorotypidae), with the description of three new species. Zootaxa 3717, 498-514. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目の多様な交尾行動を解明
真下雄太(博士課程)、町田龍一郎(教授)、シエナ大学R. Dallaiグループ;Naturwissenschaften, 100: 581-594.
 マレー半島で同所的に存在するジュズヒゲムシ 2 種 Zorotypus impolitusZorotypus magnicaudelli の交尾行動・繁殖様式について明らかにしました。 ジュズヒゲムシ目のオスには、硬化したコイル状の交尾器をもつタイプと柔らかいヘラ状の交尾器をもつタイプが知られていました。今回の論文では 2 種の交尾行動と生殖系の違いについて記載し、オスとメスの交尾器の機能的な対応付けや、その進化学的な考察を行っています。 特に衝撃的なのが、Z. impolitus の交尾様式で、ジュズヒゲムシ目では初報告となる間接精子輸送(交尾をせずに精包を渡す様式)を行うことが明らかとなりました。
R. Dallai, M. Gottardo, D. Mercati, R. Machida, Y. Mashimo, Y. Matsumura, R.G. Beutel (2013) Divergent mating patterns and a unique mode of external sperm transfer in Zoraptera: an enigmatic group of pterygote insects. Naturwissenschaften, 100: 581-594. 本文へのリンクはこちら

モチノキタネオナガコバチは寄主植物がない場合に近縁種に産卵する
高木悦郎(特任助教)グループ;Journal of Entomological Research Society, 15(2), 17-20
 昆虫の雌成虫は、幼虫の成長・発育に適した寄主植物を選んで、そこに産卵するという仮説があります(Preference-performance hypothesis)。 この仮説によると、好適な寄主植物が近くにない場合や、すでに多くの卵が産卵されている場合などには、不敵な寄主植物に産卵すると予測されています。 これまで、多くの狭食性昆虫(数種類の植物しか食べない)で、この仮説が支持されてきました。 しかし、単食性昆虫(1種類の植物しか食べない)では、この仮説が予測するように、 寄主植物が存在しない場合に他の植物に産卵するか、明らかになっていませんでした。  本研究で、モチノキの種子のみを食べて育つモチノキタネオナガコバチという昆虫に、モチノキの近縁種のタラヨウのみを与えたところ、モチノキタネオナガコバチはタラヨウの種子に産卵することが明らかになりました。 さらに、タラヨウの種子でも、幼虫は正常に成長・発育しました。 これらのことから、1)単食性昆虫にも上記の仮説が当てはまること、2)タラヨウがモチノキタネオナガコバチの潜在的な寄主であることが明らかになりました。
Etsuro TAKAGI, Katsumi TOGASHI (2013) Oviposition of the Seed Parasitoid Wasp Macrodasyceras hirsutum (Hymenoptera:Torymidae) into Seeds of Nonhost Tree llex latifolia. Journal fo the Entomological Research Society,15(2) 17-20. 本文へのリンクはこちら

(書籍)菌類学入門講座を電子書籍で出版
中島淳志(修士課程);(きのこファンのための)はじめての菌類学 (1) [Kindle版]
 著者は、本実験センターの「ナチュラリストの会」の皆さんのために、オンライン講座「ゼロからはじめる菌類学入門」を開講し、菌類学を初歩から教えて きました。この本は、その内容の一部を加筆・修正して収録した第1巻です。本書はKDP (Kindle Direct Publishing) という、個人が無償でAmazonに電子書 籍を出版できるシステムを用いて出版されたものです。KDPは2012年秋に日本でのサービスが始まりましたが、大学生・大学院生が学術書(入門書を含む)を 出版した例はこれまでありませんでした。そこで、著者はその先駆けとなるべく出版を試みたところ、発売直後からTwitterを中心に大きな反響を呼び、僅か 3日で電子書籍個人出版の大手webサイトにインタビュー記事が掲載されるなど、菌類学お よび個人出版電子書籍の普及活動として大きな成果を上げました。
本書へのリンクはこちら(Amazonの商品紹介ページ)

日本産ガロアムシの種分化の歴史を解明
町田龍一郎(教授)グループ; Molecular Phylogenetics and Evolution, 66 915-927.
 島の生態系の進化・多様化のパターンの解明は、生物の種分化要因としての地理・時間・生態などの相互作用に関して様々な重要な知見をもたらします。 生物地理学的理論では、島の種多様性は生物の移入元である近隣の大陸の生物相に依存するとされ、大陸から隔離されることで生物の移入が止まると、 徐々に絶滅などにより種数が減少し、やがて安定する(リラックス期)といわれています。私たちが暮らしている日本も大陸島のひとつで、中新世の初 期から中期(約2,300万年前 - 530万年前)にアジア大陸から分断したとされています。日本には豊富な固有種が生息しており、これらは1) 中新世に大 陸から分断された時点で生息していた生物種が島内で種分化した、あるいは2) 更新世(氷河期)の海面低下によって形成された地峡を介して、アジア大 陸から移入してきた生物種が比較的最近に種分化したもののどちらかであると考えられています。
 本研究では、こうした日本の固有種がどのようにして多様化してきたのかについて明らかにすることを目的として、1) 大陸からの現在進行形で生物が 移入しているのか、2) リラックス期に入っているのか、3) 地理的・気候的イベントが生物の多様化に関係しているのかなどについて解析を行いました。 解析の対象としたのは、無翅・好冷温・好湿潤・山域に生息という特徴をもち、地理的・気候的イベントの影響が表れやすいことが期待されるガロアム シという昆虫群です。中部山岳行きを中心とした日本全国、韓国、北アメリカ、ロシアのガロアムシを用いて分子系統解析、分岐年代推定、集団動態統 計解析などを行った結果、日本のガロアムシは北海道系統、本州系統、四国系統の3系統に分かれ、アジア大陸からの日本の分断パターンと一致している ことが明らかとなりました。そして、日本のガロアムシの多様性は停滞期には入っておらず、むしろ中新世から続く山脈形成などの地理的イベントに伴い、 その固有性を増しつつあるということが示唆されました。一方で、氷河期-間氷期などの気候変動は、ガロアムシの多様性にそれほど影響を与えていない ことが明らかとなりました。
Schoville, S.D., T. Uchifune and R. Machida (2013) Colliding fragment islands transport independent lineages of endemic rock-crawlers (Grylloblattodea: Grylloblattidae) in the Japanese archipelago. Molecular Phylogenetics and Evolution, 66 915-927. 本文へのリンクはこちら

標高勾配上の自然集団に含まれる遺伝変異の空間分布モデリング」
統計数理研究所共同利用, 2013, 代表:平尾章(研究員)

コムシ目の分類学的研究−多様性把握のための手法確立を目指して−
長野県科学振興会研究助成, 2013, 代表:関谷 薫(技術補佐員)

絶翅目の比較発生学的研究 −多新翅類のグラウンドプラン構築に向けて−
筑波大学研究基盤支援プログラム(Aタイプ), 2013, 代表:真下 雄太(生命環境科学研究科D2)


<2012年>
実験センター内の森林に生息するネズミ2種の生育地分割
鈴木亮(特任助教)グループ;Mammal Study 37: 261-272.
 生活形の似た2種がなぜ共存できるのかは、生態学で昔から検証されていますが、未だ結論は出ていません。この研究は、陸上と半樹上で同所的に生息する森林性の野ネズミ2種、アカネズミとヒメネズミ を対象に、2種の共存メカニズムを明らかにするために生育地の分割パターンを調べました。生息地の森林タイプや林床植生、餌資源、生息地利用の季節的な変化を調べた結果、2種の生息地の分割は、 季節、森林タイプ、林床植生によることが明らかになりました。また、2種の競争関係も、生育地分割に寄与していることが推測されました。
 本論文は、第5回日本哺乳類学会論文賞を受賞しました。
Shinsuke H. Sakamoto, Satoshi N. Suzuki, Yousuke Degawa, Chihiro Koshimoto and Ryo O. Suzuki (2012) Seasonal habitat partitioning between sympatric terrestrial and semi-arboreal Japanese wood mice, Apodemus speciosus and A. argenteus in spatially heterogeneous environment. Mammal Study 37: 261-272. 本文へのリンクはこちら

春日山原始林の林床草本ミヤコアオイに対するシカの食害
鈴木亮(特任助教)・前迫ゆり(大阪産大);地域自然史と保全 34:37-43.
 奈良市に位置する春日山原始林(特別天然記念物)は、高密度に生育するニホンジカの採食圧によって、多くの植物個体群の消失が危惧されている。 なかでも林床植物の減少は著しい。そこで、常緑多年生草本ミヤコアオイ個体群を対象にシカの影響を回避するケージを設置し、1年間の追跡調査を 行った。
 その結果、春日山原始林のミヤコアオイは個体数が多く個体群維持が安定していると考えられていたが、強い食害を受けていることが明らか になった。

春日山原始林にひっそりと生育するミヤコアオイ
鈴木亮・前迫ゆり.(2012) 春日山原始林の林床草本ミヤコカンアオイの個体群動態. 地域自然史と保全 34:37-43. 本文へのリンクはこちら

北米産ジュズヒゲムシの雄性生殖系・雌性生殖系を解明
真下雄太(修士課程)、町田龍一郎(教授)、シエナ大学R. Dallaiグループ;Arthropod Structure and Development, 41: 337-359.
 北米産ジュズヒゲムシの雄性生殖系と雌性生殖系の詳細について記載した論文です。本研究によって、北米産ジュズヒゲムシの雄性生殖系の特徴として、 1) 精巣は小さく、輸精管が極端に短い 2) 著しく大きな貯精嚢をもつ、3) 貯精嚢内で分泌物によって精子がまとめられ、精包が形成される、4) 大きな分 泌腺を3つもつ、5) 挿入器が短いことが明らかとなりました。また、雌性生殖系では、精包を受け取るための大きな貯精嚢をもつなど、オスの生殖様式に 対応した特徴がみられました。
 以前にマレーシア産ジュズヒゲムシの雄性生殖系について明らかにした論文 を紹介しましたが、両者の生殖系は形態的に大きく異なっており、これはこの2種の交尾行動と繁殖戦略の違いを反映していると考えらえます。ジュズヒゲムシ目は、目内 での外部形態のバリエーションは少ないですが、その代わりに交尾器の形態が非常に多様化しています。そのため、繁殖戦略や交尾器の進化などを考えるうえで、非常に 興味深い材料といえるでしょう。
R. Dallai, D. Mercati, M. Gottardo, A.T. Dossey, R. Machida, Y. Mashimo, R.G. Beutel (2012) The male and female reproductive systems of Zorotypus hubbardi Caudell, 1918 (Zoraptera). Arthropod Structure and Development, 41: 337-359. 本文へのリンクはこちら

熱帯雨林の樹木の種間相互作用を解明
鈴木亮(特任助教)グループ;Journal of Tropical Ecology 28: 281-289.
 植物は、他種の植物と競争してお互いを排除し合ったり、種ごとに異なる環境に生育するようになる傾向がある。寿命の長い樹木では、そうした種間相互作用の過程を追跡する ことは難しいが、それぞれの種がどのように空間的に分布しているかを解析すると、背景にある種間相互作用が推測できる場合がある。
 マレーシアの熱帯雨林に同所的に生育するフタバガキ科の樹木11種を対象に、空間分布を解析した。著者らの先行研究で、11種は複数の生態的特徴から、成長の速い7種と成長の遅い4種にグル ープに分けできる。空間分布の解析により、成長の速い7種はお互いに排他的に分布(個体間の距離が離れて分布)していたのに対し、成長の遅い4種は独立に分布あるいは近接して分布(個体間の距離が近い) する傾向が多く見られた。さらに、その傾向は、生育段階が進むほど顕著になった。
 以上の結果は、成長の速い7種は激しく競争しあっていたり、異なる環境を選択しているが、成長の遅い4種はあまり競争していないことを示唆する。
Suzuki, R.O., Numata, S., Okuda, T., Nur Supardi M.N., Abd. Rahman K. & Kachi, N. (2012) Species associations among dipterocarp species co-occurring in a Malaysian tropical rain forest. Journal of Tropical Ecology 28: 281-289. 本文へのリンクはこちら

形態進化とともに変わる植物間相互作用を検出
鈴木亮(特任助教)・鈴木智之;Plant Ecology 213:175-183.
 シカからの採食圧を受ける環境では、ある種の植物はトゲや毒をもって身を守っていたり、体を小型化させて食べられにくくなるよう進化している。しかし、体の小型化は、 植物同士の資源めぐる競争には非常に不利になる。一方、トゲを持つ植物はその周囲にいる植物を間接的にシカから守ることが知られている。
 シカが多数生息する奈良公園では、一年草のイヌタデが体を小型化するよう進化している。一方、シカのいない地域に生育するイヌタデは体が小型化せず大きな形態をもつ。 そこでこの研究では、トゲを持つ体の大きな植物(イラクサ)が、小型形態に進化したイヌタデと大きな形態をもつイヌタデそれぞれに対し競争するかのかそれともシカから守るのかを検証した。
 方法は、イラクサのすぐ隣と、イラクサから離したところに、小型化イヌタデと大きな形態のイヌタデそれぞれを移植し、その後シカにどれほど食べられるかを調べた。
 結果は、大きな形態のイヌタデは、イラクサそばで守られて成長や生存がよくなり、繁殖量が多くなった。一方、小型化イヌタデは、イラクサそばでは競争に負け、成長、生存、繁殖量が悪くなった。 つまり、イヌタデの形態が小型に進化したことによって、本来はイラクサから守られる関係であったのが、競争を受ける関係に変わったと考えられる。
Suzuki, R.O., Suzuki, S.N. (2012) Morphological adaptation of a palatable plant to long-term grazing can shift interactions with an unpalatable plant from facilitative to competitive. Plant Ecology 213: 175-183. 本文へのリンクはこちら

ティーバッグを用いた中部山岳域全域での大規模落葉分解実験
中部山岳地域環境変動研究機構筑波大学プログラム重点支援経費公募, 2012, 代表:鈴木亮(特任助教)

連続的環境勾配における個体群統計パラメータ変異のモデリング
統計数理研究所共同利用, 2012, 代表:田中健太(准教授)

シロイヌナズナ属野生種の標高への適応進化の遺伝的機構:移植実験による遺伝子の適応度の実測
京都大学生態学研究センター 共同研究a計, 2012, 代表:田中健太(准教授)

森林限界の生態系における温暖化実験
中部山岳地域環境変動研究機構筑波大学プログラム重点支援経費公募, 2012, 代表:田中健太(准教授)

安心して自然教育を受けられるユニバーサルデザイン
筑波大学学群教育用設備整備等事業, 2012, 代表:沼田 治(教授)

Formation of germ band in Diplura, with special reference to the differentiation of germ layers (Hexapoda)
海外発表促進助成, 2012, 代表:関谷 薫(博士特別研究員)

Taxonomic revision of Diplura in Japan
Jessup Fellowship, 2012, 代表:関谷 薫(博士特別研究員)


<2011年>
標高が高いほど遅咲きが進化
田中健太(助教)グループ;Journal of Ecosystem and Ecography S6:001
開化タイミングは、植物がどれだけ子孫を残せるかを左右する、重要な形質だ。ミヤマハタザオは標高30〜3000mの山に分布しており、生育環境が大きく異なっている。その中で、どのような開化タイミングを進化させているだろうか。様々な標高の38集団で種子を採集し、それを実験室で栽培して開化タイミングを調べた結果、元の標高が高いほど遅咲きになるという明瞭な傾向が得られた。また、栽培初期に冬を経験させると開化が早くなるが、その効果は元の標高が高いほど大きかった。これらの性質は遺伝的に決まっており、標高に対する適応進化の結果だと考えられる。標高が低いところでは暑さの厳しい夏の前に繁殖を終えることが有利であり、標高が高いところではゆっくりと成長して二年目以降に開花することが有利なのかもしれない。
(左)冬なし。元の標高が高いほど遅咲き。点の色の違いは、亜種や栽培世代の違い。(右)冬あり。冬なしとの違いは、高標高ほど大きい。
T. Kenta, A. Yamada & Y. Onda. 2011 Clinal variation in flowering time and vernalisation requirement across a 3000-m altitudinal range in perennial Arabidopsis kamchatica ssp. kamchatica and annual lowland subspecies kawasakiana. Journal of Ecosystem and Ecography S6:001 本文へのリンクはこちら(オープンアクセス)

野外生態系を舞台とした、植物の生きざまについての解説
田中健太(助教);「ゲノムが拓く生態学―遺伝子の網羅的解析で迫る植物の生きざま」(種生物学会編)文一総合出版, pp25-50.
本書は、ゲノム解析が生態学にどのように寄与しうるか、原理や実践例の解説書です。その中で、オウシュウミヤマハタザオを例に様々なオミクス手法を組み合わせて分布と適応を解き明かそうとした試みを解説しました。
田中健太(助教);野外生態系を舞台にオミクスをどう活かすか?:オウシュウミヤマハタザオの分布と適応」In:「ゲノムが拓く生態学―遺伝子の網羅的解析で迫る植物の生きざま」(種生物学会編)文一総合出版, pp25-50. 書誌情報はこちら

精子微細構造がコムシ目の単系統性を支持
関谷薫(博士課程)、町田龍一郎(教授)グループ;Arthropod Structure and Development, 40 (1): 77-92.
 コムシ目はハサミコムシ亜目とナガコムシ亜目の二亜目からなる分類群です。しかしながら、卵巣形態の比較からは、[ハサミコムシ亜目+真正昆虫類(外顎類)]+[ナガコムシ 亜目+欠尾類(=カマアシムシ目+トビムシ目)]という系統仮説が提示され、また精子形態の比較からはナガコムシ亜目+[ハサミコムシ亜目+(カマアシムシ目+トビムシ目)] とする系統仮説が提示される等、比較生殖学の観点からはコムシ目の単系統性は疑問視されてきました。本論文では、ハサミコムシ亜目・ナガコムシ亜目の精子の微細構造が記載さ れました。ハサミコムシ亜目でこれまで確認されていなかった、精子の核の直下にある非常に短い微小管が観察されたことで、両亜目の精子微細構造は同じプランに基づいたもので あることが明らかとなり、コムシ目の単系統性が強く支持されました。また、コムシ目の精子微細構造は欠尾類のそれとは大きく異なり、外顎類の精子微細構造とコムシ目の精子微 細構造は共有派生形質とみなせることから、コムシ目と外顎類の類縁性が示唆されました。本論文では、Grassi (1888) によって記載されたハサミコムシ亜目の雄生殖系について、 その誤りを指摘し再記載を行いました。
Dallai, R., D. Mercati, A. Carapelli, F. Nardi, R. Machida, K. Sekiya and F. Frati (2011) Sperm accessory microtubules suggest the placement of Diplura as the sister-group of Inscta s.s. Arthropod Structure and Development, 40 (1): 77-92. 本文へのリンクはこちら

ルリゴキブリEucorydia yasumatsui Asahina(昆虫綱・ゴキブリ目・ムカシゴキブリ科)の累代飼育系を確立
藤田麻里(修士課程)、清水将太(博士課程)、町田龍一郎(教授)グループ; Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 46: 1-3.
 ゴキブリ目は、カマキリ目とシロアリ目とともに網翅類というまとまったグループをつくるということはコンセンサスが得られていますが、3目間の系統関係は議論が 定まっておらず、また、ゴキブリ目についてはその単系統性がしばしば議論されています。このような系統学的議論の絶えない網翅類の理解において、ゴキブリ目は 最初に検討されるべき重要なグループです。
 このような背景から、ゴキブリ目全グループを網羅した比較発生学的研究を計画し、その第一段階として、ゴキブリ目の最原始系統群と目されるムカシゴキブリ科の 発生学的研究を開始しました。著者らは、ムカシゴキブリ科の研究を行うにあたり、南西諸島にのみ産する、ルリゴキブリEucorydia yasumatsui Asahinaを材料に選 び、本種の累代飼育系の確立に初めて成功しました。さらに、本論文は、本種の採集や飼育法に関しての他、累代飼育系より幼虫を個別飼育することで、幼虫期の全 齢数が少なくとも8であるということを明らかにしました。
Fujita, M., S. Shimizu and R. Machida (2011) Establishing a culture of Eucorydia yasumatsui Asahina (Insecta: Blattaria, Polyphagidae). Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 46: 1-3.

コムシ目ハサミコムシ亜目の内顎口形成過程を解明
関谷薫(博士課程)、町田龍一郎(教授)グループ;Soil Organisms, 83: 399-404.
 コムシ目は翅を獲得する以前の原始的な体制を留めた六脚類(広義の昆虫類)です。これまでコムシ目は、内顎口とよばれる口の形態的特徴をもつことから、トビムシ目、 カマアシムシ目とともに内顎類としてまとめられてきました。しかしながら近年、原始的な六脚類の系統関係については様々な仮説が提唱され、内顎類というグループの妥 当性にも疑問が投げかけられています。
 本論文では、内顎類をまとめる唯一の特徴である“内顎口”に着目し、コムシ目の二亜目のうち、これまでほとんど発生学的研究のなされてこなかったハサミコムシ亜目の 内顎口形成を記載しました。また、他の内顎類であるトビムシ目、カマアシムシ目の内顎口と比較をすることで、内顎類というグループの妥当性について検討を行いました。 本研究から、コムシ目の内顎口と、トビムシ目、カマアシムシ目の内顎口は、形成の様式、各部の構成要素などが異なっていることが明らかとなり、内顎類というグループが 必ずしも支持されないということが示唆されました。
Sekiya, K., R. Machida (2011) Formation of the entognathy of Dicellurata, Occasjapyx japonicus (Enderlein, 1907) (Hexapoda: Diplura, Dicellurata). Soil Organisms, 83: 399-404. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目の雌性生殖系を解明
真下雄太(修士課程)、町田龍一郎(教授)ほか、シエナ大学R. Dallai 、イェーナ大学R. G. Beutelグループ;Arthropod Structure and Development, 41: 51-63.
 ジュズヒゲムシ目の雌性生殖系の微細構造を記載した論文です。著者らは、ジュズヒゲムシ目が、1)多新翅類で典型的にみられる無栄養質型の卵巣をもつこと、2) 卵巣小管 の基部に卵殻の突起縁形成に関与する構造が発達していること、3) 貯精嚢管が非常に長く、コイル状になっていること、4) 初期の卵母細胞が基底膜と薄い細胞質のみで覆わ れることについて明らかにしました。特に興味深いのは3) のコイル状の貯精嚢管で、雄にもコイル状の交尾器が備わっていることから、これは「雌が交尾器形態を利用して 優秀な精子を選ぶ」という隠れたメスの選択cryptic female choice が関与している可能性があります。交尾器形態や生殖系に関しては、今後機能形態学的な面からさらに詳 細に解明を試みる予定です。
The fine structure of the female reproductive system of Zorotypus caudelli Karny (Zoraptera). Dallai, R., D. Mercati, M. Gottardo, R. Machida, Y. Mashimo, R. G. Beutel Arthropod Structure and Development, 41: 51-63. 本文へのリンクはこちら

ジュズヒゲムシ目の雄性生殖系を解明
真下雄太(修士課程)、町田龍一郎(教授)、シエナ大学R. Dallai 、イェーナ大学R. G. Beutelグループ;Arthropod Structure and Development, 40: 531-547.
 ジュズヒゲムシ目の雄性生殖系と精子の微細構造について記載した論文です。今回焦点を当てている内部生殖系や精子構造などは、淘汰圧の影響を直接受ける外部形態よりも、 安定した系統情報を与えるとされています。ジュズヒゲムシ目の生殖系に関してはいくつか記載がありますが、今回は超微細構造まで徹底的に記載を行っています。また、精 子微細構造に関する知見は本研究が初です。特に興味深い結果として、ジュズヒゲムシ目が、1)著しく長い精子を繁殖に用いていること、2) 精子鞭毛の付属微小管が17本の原 繊維から構成されること、3) 中心体域において、微小管トリプレットの間に車輪状に並んだ薄層が並ぶこと、4) 軸糸の両側に電子密度の高い管状(後方では扁平)の構造が存 在すること、5) 微小管ダブレットの 9 つ中 2 つがA,Bの副微小管にわかれていること、などが挙げられます。準新翅類との共通点は見つからない一方で、多新翅類、その中 でも特にナナフシ目との類似点が目立ちました。
 先日紹介した卵構造でのチビナナフシ類と卵門数の一致、分子系統・比較形態から支持されるシロアリモドキ目+ナナフシ目の近縁性、比較形態からよく支持されるジュズ ヒゲムシ目とシロアリモドキ目の近縁性などもあり、今回の結果はこの3群の進化を考えていく上で非常に興味深いものです。
The male reproductive system of Zorotypus caudelli Karny (Zoraptera):sperm structure and spermiogenesis. Dallai, R., D. Mercati, M. Gottardo, R. Machida, Y. Mashimo, R. G. Beutel Arthropod Structure and Development, 40: 531-547. 本文へのリンクはこちら

標高勾配上の自然集団に含まれる遺伝変異の空間分布モデリング傾度に沿って分布するシロイヌナズナ属野生種の温暖化適応形質の進化
科学研究費(若手B), 2011, 代表:平尾 章(研究員)

標高適応遺伝子の時空間動態におけるジーンフローと自然選択の役割−シロイヌナズナ属野生種を例に−
統計数理研究所共同利用, 2011, 代表:田中健太(助教)

森林限界の生態系における温暖化実験
中部山岳地域環境変動研究機構筑波大学プログラム重点支援経費公募, 2011, 代表:田中健太(助教)

最新・安全・身近な自然教育のための野外実習環境整備
筑波大学学群教育用設備整備等事業, 2011, 代表:沼田 治(教授)

木曽駒ヶ岳(西駒ステーション)の生態系変動のモニタリング
中部山岳地域環境変動研究機構山岳科学総合研究所公募研究, 2011, 分担:田中健太(助教)

Embryonic development of /Baculentulus densus/ (Imadate')(Hexapoda: Protura, Acerentomidae)
若手研究者国際会議出席費用補助金(日本動物学会), 2011, 代表:福井眞生子(学術研究員)

ハサミコムシ亜目の発生学的研究ー六脚類高次系統「内顎類ー外顎類システム」の検証ー
科学研究費(特別研究員奨励費), 2010-11, 代表:関谷薫(日本学術振興会特別研究員DC2)

昆虫類の高次系統の再検討−内顎類全3目の内顎口の比較発生学的検討−
科学研究費(基盤研究C), 2009-11, 代表:町田龍一郎(教授)

菅平高原での蘚苔類相の把握による中部山岳地帯の環境変動の評価
長野県科学振興会研究助成, 2011, 堀清鷹(学部生), 鈴木亮(特任助教)グループ
 長野県上田市菅平のコケ植物相は齊藤亀三博士が1968〜1974年に広範囲で網羅的な調査を行い、ミズゴケ属などの希少種を含む数多くの種が確認されました。 一方、近年多くの高山植物の生育場所が、温暖化により高標高な地域に後退している事が観察されています。中部山岳地域は高山性の植物が多く特に温暖化の影響が顕著になる可能性が指摘されています。そのため、環境の変動に敏感なコケ植物が、温暖化による影響を受けているかどうかを検討する事は急務です。
 そこで本研究は、菅平地域での現在のコケ植物相について調査を行い、過去の記録と比較することにより、どの程度現在のコケ植物相が衰退あるいは変化しているかを分析します。

絶滅が危惧されるヒカリゴケ

植生遷移にともなう多様性・生産性関係の変化
科学研究費補助金若手研究(B), 2011-2013年, 代表:鈴木亮(特任助教)
 この研究の目的は、生態学において最も注目されている多様性・生産性仮説について、植生遷移という新しい切り口で検証することです。 多様性・生産性仮説は、面積当たりの種多様性とバイオマスが正に相関すると予測しますが、先行研究では、人工草本群落で支持され (Tilman et al. 1996, 2001) 、自然草本群落では支持されない(Jiang et al. 2009)という、矛盾が生じていました。 本研究では、遷移段階の違いがこの矛盾を説明すると予測しました。2010年から菅平高原実験センターの草原で実験を開始し、予測を裏付ける結果が出始めています。

筑波大学構内兵太郎池の水生生物相を把握
小粥隆弘(修士課程)ほか兵太郎池環境プロジェクトメンバー;筑大演報 27:71−85.
 筑波大学構内には自然保護、景観保全を目的に敷地面積の1/3にあたる80haを「筑波大学保存緑地地区」に指定しています。しかし近年、地区の一部である「兵太郎池(周囲約550m, 面積約0.32ha)」の水質悪化や外来種増加が問題視されています。私たちは兵太郎池の過去の環境状況の再現することを最終目標とし、今回はその基礎資料として、水性生物相について捕獲調査を行いました。その結果、アメリアザリガニやウシガエルの幼生が大量に獲られました。また少数ですが特定外来種のオオクチバスやブルーギルも捕獲されました。その一方で茨城県のレッドデータリストで危急種に指定されているアオヤンマをはじめ、多くの水生昆虫が獲られました。今後、上記の外来種の防除方法、在来生物の保全、また水質改善方法を検討する必要があります。
遠藤好和、佐藤美穂、藤岡正博、安井さち子、諸澤崇裕、小粥隆弘 (2011) 筑波大学構内兵太郎池の水生生物相. 筑大演報 27:71−85. 本文へのリンクはこちら


ドウボソハサミムシ科がハサミムシ目において非常に原始的な状態を有することを示唆
清水将太(博士課程)、町田龍一郎(教授)グループ;Arthropod Systematics and Phylogeny, 69:83-97.
 著者らは、ドウボソハサミムシの卵が巣の壁面に固着されること、母虫が卵・若齢幼虫に示す保育行動様式がハサミムシ目における派生的なグループに比べて単純であること、幼虫の齢数がハサミムシ目における知見の中で最多の 8〜9 であることなどを見出しました。著者らは目内での比較を通し、固着生卵の産下、より単純な保育行動の特徴、より多い幼虫の齢数といった特徴が、ハサミムシ目における原始的な特徴であるということを結論付けました。特に、齢数の観点からは、ドウボソハサミムシ科がハサミムシ目において非常に原始的な状態を有していることが示唆されます。
Shimizu, S., R. Machida (2011) Reproductive biology and postembryonic development in the basal earwig Diplatys flavicollis (Shiraki) (Insecta: Dermaptera: Diplatyidae) Arthropod Systematics and Phylogeny, 69:83-97. オープンアクセスの雑誌ですのでどなたでも閲覧可能です。 本文へのリンクはこちら


ハサミムシの仲間の交尾行動を解明
清水将太(博士課程)、町田龍一郎(教授)グループ;Arthropod Systematics and Phylogeny, 69:75-81.
 ハサミムシ目は、本目における原始的特徴を数多く有するベーサル・グループ(原始ハサミムシ類)と、より派生的なグループ(高等ハサミムシ類)に大別されます。そのうち、Apacyidae 科は、後者の最原始系統群と目されています。著者らは、本科の A. chartaceus が大変狭い場所で交尾を行い、その際に雌雄は背腹面が逆転した状態で向き合うこと、オスは自身の尾鋏=ハサミでメスを把握し続けることを見出しました。本種の交尾行動は大変ユニークであり、特に交尾の際の雌雄の姿勢やオスがハサミでメスを把握する特徴は、ハサミムシ目における派生的な特徴であることが示唆 されました。卵は固着性であることも見出しました。固着性卵の産下は、ハサミムシ目における原始的な特徴であり、高等ハサミムシ類においては、本科のみが有することがわかりました。
Shimizu, S., R. Machida (2011) Notes on mating and oviposition of a primitive representative of the higher Forficulina, Apachyus chartaceus (de Haan) (Insecta: Dermaptera: Apachyidae) Arthropod Systematics and Phylogeny, 69:75-81. オープンアクセスの雑誌ですのでどなたでも閲覧可能です。 本文へのリンクはこちら


ジュズヒゲムシ目の卵構造を解明
真下雄太(修士課程)、町田龍一郎(教授)、シエナ大学R. Dallai 、イェーナ大学R. G. Beutelグループ;Tissue and Cell, 43: 230-237.
 ジュズヒゲムシ目(絶翅目Zoraptera)は、生物学的な知見が極めて少なく、系統学的にも非常に謎に包まれた昆虫群です。ジュズヒゲムシ目に関しては近年、頭部形態、胸部形態、翅基部、生殖系などの形態学的知見が充実しつつありますが、重要な発生学的知見は、本目の採集や飼育系の確立の困難さから、長年の間皆無のままでした。著者らは、初めてジュズヒゲムシ目の胚発生を明らかにすべく、研究を開始しました。
 本論文では、発生学的研究の一環として、重要形質である卵構造について詳細に記載し、ジュズヒゲムシ目の卵が、1)表面のハニカム構造、2)無数の気孔 が貫通している外卵殻と柱状突起をもつ内卵殻、3)背側赤道付近にそなわる一対の卵門、4)側方に伸びる卵門管とその内側開口にみられるフラップ構造、 5)卵蓋などの孵化のための特殊化がみられない、などによって特徴づけられることを明らかにしました。
 今回明らかになった卵構造の特徴を、他の昆虫群の卵構造と比較したところ、敏唇類(=シロアリモドキ目+ナナフシ目)のベーサルクレードとされるチビナナフシ類と卵門数が一致するという興味深い結果が得られました。ジュズヒゲムシ目、シロアリモドキ目、ナナフシ目の3群の近縁性は、近年の研究でも示唆されており、今後の系統学的議論の展開が非常に期待されます。
Mashimo, Y., R. Machida, R. Dallai, M. Gottardo, D. Mercati, R.G. Beutel (2011) Egg structure of Zorotypus caudelli Karny (Insecta, Zoraptera, Zorotypidae). Tissue and Cell, 43: 230-237. 本文へのリンクはこちら


奈良公園に生育する植物間の正と負の相互作用を検出
鈴木亮(特任助教)グループ;Plant Ecology 212:343-351.
 シカからの採食圧を受ける環境では、ある種の植物はトゲや毒をもって身を守っていたり、体を小型化させて食べられにくくなるよう進化している。一方、トゲを持って身を守る植物はその周囲にいる植物も間接的に守ることが知られている。
 鈴木亮特任助教らは、シカが多数生息する奈良公園で、トゲを持つ植物(イラクサ)が、形態を小型化させている植物(イヌタデ)を守るかを調べた。
 結果は、イラクサのそばにいるイヌタデ個体は、そばにいない個体と比べ成長は上がったが、生存と繁殖量、適応度には差がなかった。また、採食を受けないように柵で覆うと、イラクサのそばにいるイヌタデは生存、成長、繁殖ともに下がった。このことから、小型化したイヌタデに対してはイラクサの保護効果は限定的であり、むしろ競争による負の効果があることが分かった。
Suzuki, R.O. & Suzuki, S.N. (2011) Facilitative and competitive effects of a large species with defensive traits on a grazing-adapted, small species in a long-term deer grazing habitat. Plant Ecology 212: 343-351. 本文へのリンクはこちら



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