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No.4: 発熱する植物!? −ザゼンソウの不思議−

恩田 義彦(研究員)
2010年5月

ザゼンソウ
ザゼンソウ 2006年4月7日 清水悟氏撮影

 ここ菅平には、「温かい植物」が生息しています!植物が「温かい」なんて?どういうことかと思われるでしょう。実は、菅平の湿原に群生しているザゼンソウという植物は発熱するのです。ザゼンソウの花の部分は20℃程度に発熱しているのです!

 私は2008年4月に岩手県盛岡市から菅平高原にやってきました。盛岡では、ザゼンソウの発熱現象についての研究を行っていましたので、少しご紹介させて頂きます。ザゼンソウはサトイモ科の植物です。同じサトイモ科の植物にはミズバショウや、食用としているサトイモ、コンニャクなどがあります。ザゼンソウの花の形はミズバショウに比較的似ています。ミズバショウは白くて大きな花びら(仏炎苞という)と、緑色で長細い棒状の花(肉穂花序という)を持っています。湿原に群生して春の訪れを感じさせてくれます。一方ザゼンソウは、赤褐色の少々不気味な花びらで、ラグビーボール状の小さい花を持っています。また、ザゼンソウはミズバショウよりも少し早く花を咲かせます。春先に最も早く花を咲かせる植物の1つではないでしょうか。

 ザゼンソウの発熱する部分はラグビーボール状の花のみで、花びらや葉は発熱しません。この花の温度は、気温が大きく変わっても発熱によって20℃程度の一定の温度に保たれます。例えば、早朝の気温がマイナス10℃でも花は20℃程度に発熱し、その差はなんと30℃にもなります。ちなみに普通の発熱しない植物の体温は気温とほぼ同じです。このようなザゼンソウの発熱現象は、開花している時期に1週間くらい続きます。まだ雪が残るザゼンソウの群落地に行ってみると、発熱することによって周りの雪が溶け、雪にポッカリ穴を開けて顔を出しているザゼンソウを見つけることもできます。寒い山の中で、じっと寒さに耐えながら20℃にも発熱しているなんてすごい植物だと思いませんか?ちなみに、ザゼンソウという名前は、植物の形が座禅を組む僧侶の姿に見えることから由来するとされています。ザゼンソウは寒さに耐えて厳しい修行を積んでいるのかもしれません。

 私はザゼンソウの花がどのような仕組みで発熱しているのか?という疑問を持って、研究を進めました。過去の研究では、植物の発熱にはシアン耐性呼吸酵素というタンパク質が重要であると考えられてきました。一方、動物の発熱には脱共役タンパク質が重要な働きをしていることが知られていました。なぜ植物と動物では発熱に関わるタンパク質が違うのだろうか、植物も動物と同じ発熱の仕組みを持っているかもしれないと考えました。そこで、ザゼンソウの発熱の仕組みを研究したところ、なんと、ザゼンソウは植物と動物の発熱の仕組みを両方とも持っているということを発見しました。ザゼンソウは植物でありながら動物のような仕組みも持っているのです。

 私は、長野県の白馬村に毎年のように訪れていました。白馬村では毎年「白馬ざぜん草祭り」が開催されており、そこでザゼンソウの研究をさせて頂いていました。白馬村の飯岡地区には「白馬ざぜん草園」が整備されており、推定45万株ものザゼンソウが群生しています。これは、私の知る限り、日本で一番数の多いザゼンソウ群生地です。白馬村では4月中旬から下旬にかけてザゼンソウが開花します。この時期は、スキーシーズンも終わり、旅館や民宿の閑散期に当たり、村おこしのためにお祭りを開催しているとのことでした。このお祭りは、今年(2008年時点)で10回目を迎えたそうです。白馬村の他、岩手県北上市藤根でもザゼンソウ祭りが町おこしの一環として行われています。

 ザゼンソウをご紹介してきましたが、発熱する植物はザゼンソウの他にもいくつかあります。今回は、そのうちの2種をご紹介します。その1つはハスです。ハスの根はレンコンとして食用になり、私たちにも比較的身近な植物ではないかと思います。ハスは初夏に開花し、花托という花の部分が発熱します。花托の温度は30〜36℃の範囲内で2〜4日間程度維持されます。もう1つはヒトデカズラです。この植物は南米原産のサトイモ科の植物です。バナナの果実のような花の部分で発熱が観察されますが、なんと、その体温はおよそ40℃にまで上昇します。お風呂の温度と同じくらいなので、植物に触るとはっきり発熱していることを感じることが出来ます。

 発熱する植物の不思議、楽しんで頂けましたか?この菅平にもザゼンソウが生息しているので、花を咲かせている姿を見かけたら発熱のことを思い出してみてください。触ってみると植物のぬくもりを感じることが出来るかもしれません。

図1 群落地におけるザゼンソウの発熱

ザゼンソウ1 ザゼンソウ2

ザゼンソウの近影図(A)と、同植物体のサーモカメラ解析像(B)。ザゼンソウの肉穂花序は、寒冷環境下においてもその温度を20℃内外に保つ恒温性を有する。


図2 ハスの発熱

ハス1 ハス2

ハスの近影図(A)と、同植物体のサーモカメラ解析像(B)。ハスの発熱器官である花托は、その温度を30〜36℃程度に維持する恒温性を有する。


図3 ヒトデカズラの発熱

ヒトデカズラ1 ヒトデカズラ2

ヒトデカズラの近影図(A)と、同植物体のサーモカメラ解析像(B)。ヒトデカズラは、発熱により肉穂花序の温度を40℃程度まで上昇させる能力を有する。



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